未来の種
手放した初恋
大学時代の最初の診断結果が出た当時、私には長年お付き合いしている恋人がいた。

坂上優(さかのうえゆう)。
同級生で、生まれた時からの幼馴染。
母親同士が幼馴染で出産予定日も近かったため、私達の付き合いは、母親のお腹の中にいる頃から始まっている。
お互いに相手を意識し出したのは、一体いつからだったのかわからない。それほど前から私には優が、優には私がいた。

優のお母様である紫(ゆかり)おば様は、有名なピアニストだった。結婚前はコンセルバトワールに留学し、パリに拠点を置きながら演奏活動を行っていた。そして結婚を機に帰国し、優を産んだ。そんな紫おば様の血を受け継いだ優は、幼い頃から音楽の才能に恵まれていた。私も同じ紫おば様のピアノスクールに通っていたけれど、優が弾く曲の難易度にはいつも驚かされた。優が弾くと曲がキラキラしている。幼い頃の私はいつもそう感じていた。
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