未来の種
帰国 〜side優〜
中国から始まったとされる、未知のウイルスに世界中が侵され始めた頃、俺はまだNYにいた。

「ユウ、ロックダウンだ。」

ジュリアードで師事していたクリストファー・リーが言った。

「ロックダウン?
…なんですか? それは…?」

「日本語ではなんて言うのかな。わからないが、法的な処置を伴う外出禁止令だ。許可なく出歩く事は許されない。渡航制限もある。」

「渡航制限……。
え? じゃあ日本からは?」

「日本から来る便は、多分もう受け入れないだろう。でも日本国籍を持っていたら、本国には帰れる。ただ、もう既に日本便はかなり数が減っている。すぐに帰れるかどうかは…」

日本便を受け入れない⁉︎
美衣子が来ることになっているのに?
まさか…。
メールを確認すると、やはり来ていた。

『優、今は美衣子をそっちに行かせることが出来ない。飛行機はキャンセルした。申し訳ない。』

「……」

「ユウ、どうする?
ユカリも心配しているんじゃないか?」

クリストファーは母のコンセルバトワール時代の同期だ。ジュリアードへの留学が決まってから、公私に渡って世話になってきた。MM(Master of Music)卒業後は、ジュリアードの寮を出て、クリストファーのアパートメントにホームステイさせてもらっている。師であり、ここでの父のような存在だ。

NYに来て3年が経った。昨年、MMを卒業した俺は、秋のコンクールにかけていた。早く結果を出したかった。結果を出して、1日でも早く美衣子の元へ帰りたかった。
しかし…


「…日本便を調べます。
クリス、俺、日本に戻ります。」








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