未来の種
6月に入り、感染者数が下り坂に転じ、そろそろ解除になるかもしれない、と連日ニュースでアナウンサーが話すようになった。

幼稚園にやっとたくさんの園児が戻ってくる! そろそろ準備を始めましょう!
と、園内をピカピカに掃除し、幼稚園再開に向けて職員一丸となって消毒作業に取り組んだ。

そんな中、感染者の症状に多く見られるという、味覚障害を感じるようになる。

「優…、私、もしかしたら感染したのかも…。」

「まさか⁉︎ 熱は測った?」

「うーん……微熱かな。
37.1度ある。……どうしよう。病院行った方がいいのかな。この体温じゃ園にも行けない。
あ!………離れて。優、マスクして。」

「それ…今さらなんじゃない?
さっきもただいまのキスしたけど。」

「えぇ…どうしよう。優にもうつしちゃった? 優、実家に帰る? あ、でももう濃厚接触者なの⁉︎」

「美衣子、咳は?」

「咳は出てない。でも出ない人もいるみたいだし…。」

「味覚障害って、どんなの?」

「…昨日の焼き魚、美味しくなかったのに、優はすごく美味しかったんでしょ?」

「美味かった。」

「朝食べた糠漬けも不味かった。それにコーヒーの臭いがちょっとおかしい気がする…。」

「保健所に電話しよう。それか、お義父さんに診てもらう? 」

「だめ。診てもらってうつしたくない。
保健所にかけてみる。」

私はホームページで調べて、保健所に電話を入れた。しかし全く繋がらない。

< 84 / 91 >

この作品をシェア

pagetop