初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
3.初恋の記憶
***

 十二月になり、季節は初冬を迎えていた。

 会社では、新商品のプロモーションが当初の予定通り滞りなく進んでいる。
 一般販売は二月だが、一月にバレンタイン仕様の商品をデパートで先行販売するため、今はその仕事に追われていて忙しい。

『今日は寒いから風邪に気をつけてね』

 お昼休みに会社のデスクで坂巻さんから今朝届いた短いメッセージを眺め、私は小さく溜め息を吐いた。
『ありがとうございます。気をつけますね』と返事をしたものの、さすがにもうこんなやり取りを続けるのは限界だと思っている。

「坂巻さん?」

 私がスマホを手にしたまま難しい顔をしているのを見て、隣からそっと有希が声をかけてきた。

「どうしたらいいんだろう」

「はっきり断るしかないんじゃないかな。今の海咲が坂巻さんを好きだとは思えない」

 有希から的確な答えが返ってきて、私はデスクに肘をつき、うなりながら両手で頭を抱えた。


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