初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
4.追憶
***

 俺が篠宮と初めて出会ったのは高三の四月だった。
 最初は互いに話しかけたりしないから、俺にとっては空気同然の単なるクラスメイトだったが、それが変わったのは夏の初めの頃だった。

「颯矢はモテるよな。女の子たちが見てるぞー」

 放課後たまに友人たちとグラウンドでサッカーをして遊んでいると、必ずと言っていいほど女子が何人か見物に来ていた。
 全員が俺目当てなわけではないだろうし、声をかけられてもいないのにいちいち気にするのは自意識過剰だ。俺は冷やかされても見て見ぬふりをしていた。

「あの子もまた来てる。颯矢と同じクラスの」

 中学からの友人である(さとる)の言葉につられて不意にグラウンドの外に目をやれば、俺の視線に気づいたのかアタフタとあわてて去って行く姿が見えた。
 積極的な女子ならこちらに手を振ったりするが、逆に逃げるようなあの態度はなんなのだ。俺たちを見ていたわけではないのか?

 他とは違って変なヤツだ。そう思った人物が、篠宮だった。


 それから何日か経ち、この日も放課後にサッカーをしていた俺は校舎を出てきた篠宮と偶然鉢合わせた。

「菊田くん……サッカーやってたの?」

 それまでまともに喋ったことがなかったのに、篠宮はこの日初めて、ジャージ姿で汗をかいてる俺に話しかけてきた。

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