元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

8.とりあえずお嬢様になってみます!

 逆に聞きたいけど、他にどんな選択肢があるのでしょう。この家を出たら私は路頭に迷うこと間違いなしだし、人の口に戸は立てられないからアリアナが生きていることはいずれどこかの段階で周囲にバレるだろうし……。舞踏会でデビューしちゃってたら余計に……。私の困惑しきった顔をみて、侯爵が突然慌てだした。

「いや! 貴女にアリアナのように常に振舞えと言っているわけではなく、あくまで対外的というか……屋敷の中では自由にしてもらって構わないが、外に向けてはアリアナのふりをしてほしいのだ。既に醜聞まみれの我が娘のふりというとてつもなく過酷なことを押しつけてしまうわけだが」

 侯爵様って裏表なさそうで、間違いなくいい人ですよね。こういう階級の人たちってもっと足を引っ張りあって出世を争ったりとか、王子の愛を奪わんがために女同士ごっちゃごっちゃの策略の策略でドロドロしたりとか、もっと酒もってこーいパンがなければケーキをお食べ、な享楽的な人格なのかと思いきや(偏った知識より推測中)、目の前のこの人は娘のことを想って胸を痛め、ついでに私にも迷惑をかけて申し訳ないという気持ちがある、とても常識的な人物に思える。

 この人が父親のアリアナという人物として目が覚めた私はきっと、不幸中の幸いだったのだろう。

「はい、出来る限り頑張りますのでよろしくお願いします」

 ☆☆☆

 とりあえず明日から『貴族令嬢&淑女のマナー講座』と『この国についての基礎知識講座』を受講することを公爵に請われて、了承する。

 ディナーを一緒に、と言われたが、マナーがわからない上に、出てくる食事はきっと……と思うと途端に食欲が消え去ったので、丁重に辞退し、あてがわれている寝室に戻った。

 広い室内は夜になると薄暗い。大きめなランプがひとつベッドの脇に置かれているのと、テーブルの上にある燭台の蝋燭に火が灯されていて、なんだか『意識高い系』のエコな夜……みたいな。疲れたのでただの八つ当たりですごめんなさい。

 窓辺に立ち、重厚なカーテンをそっと押し開くと、外はまごうことなく黒の絵の具で塗りつぶされたような、真っ暗な闇であった。東京や横浜でこんな真っ暗な夜……町自体が停電していない限りないだろうな。

はぁ……
トイレ……行こ……


トイレ!?
はた、と気づく。
この環境だとトイレはもしかして…

 震えながら浴室と思われるドアを開いたら、ユニットバススタイルになっている。トイレはどうしてか丸くなく、四角い。しかも、座って用を足すのではなく……これは多分、跨ぐんですね。見たことのない微妙な形のレバーだが、どうやらトイレは、このレバーを引いたら水が流れる。ただし、勢いはかなり弱い。隣にはちり紙とゴミ箱があるから、ちり紙は流すのではなく、ゴミ箱に捨てるのだろうか? 多分ちり紙を流すと、すぐつまるような気がする。
 
 浴槽はいわゆる猫足バスタブだ。サイズは大きいが、しかし蛇口はどこにも見当たらない。そりゃそうか……お湯を常に沸かしておいてなんて技術、ないよね。トイレがあるだけありがたいと思うべきなんだろうな。

 浴槽は下に栓がしてあって、お湯は貯める感じなのだろうから、きっとどこかでお湯を沸かしたのを運んで、入るのかな。明日ティナさんに聞いて確認しよう、とベッドに潜り込むと、すぐに眠ってしまった。

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