闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
 腕に抱いたレスカーテは、想像以上に可憐だった。

 気丈に対峙した時の挑むような眼差しに痺れた。引き寄せてささやき、身を震わせる様子は、愛おしさと、引き裂きたいう嗜虐性を呼び起こしもした。

 トルトゥーラの手によって乱されていくレスカーテの様子に、トルトゥーラ自身も酔いしれた。

 先の無い事かもしれない。

 その一瞬に、トルトゥーラは全てを賭けた。

 レイが意識を回復するまでのわずかな時間が、トルトゥーラにとっては濃密な時間となった。そして今度は失う事を恐れた。

 腕の中に居るレスカーテが視線を感じて身じろぎをすると、見つめられている事に照れたようにはにかんだ笑顔を見せた。

「レスカーテ……」

 トルトゥーラはレスカーテの首筋に唇を這わせた。全てをあばきたい衝動にかられて衣の隙間に手を入れようとした時に、うめくレイの声が聞こえた。

 レスカーテは慌ててトルトゥーラの腕から逃げ、トルトゥーラによって乱さかかっていた衣を整えた。

 忌々しい思いでレイの方に向き直ると、後ずさるように逃げるようにしていたレイが動きを止めて、何かぶつぶつとつぶやきながら、決意したようにトルトゥーラを見据えた。

「危ない!!」

 レイの次にレスカーテが反応した、それはレスカーテの声だった。

 トルトゥーラを狙ったレイの切っ先は、レスカーテの杖によって阻まれた。

「何故あなたが魔王を庇う、我らは魔王を封印……いや、消滅させる為にここへ来たはず」

 髪を振り乱し、剣に力を込めるレイは、目を血走らせ、尋常ならざる様子だった。レスカーテを相手にする事で、レイの力はわずかに弱まっていた。

「考えがあります、あなたも、あなたの家も、メーディカも、お腹の赤子も!!」

 レスカーテの提案は、レイを正気に戻すに足りる内容だった。
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