闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
「魔王の子が? メーディカが身ごもっていると? それはいったいどういう事ですか? 魔王は封印されているのでは?」

 言いながらレスカーテは昨晩見た夢を思い出していた。封印の宮殿でまぐわう魔王とメーディカの姿。あれは、夢ではなく実際に起きた出来事なのか? レスカーテの血がもつ聖女としての能力ゆえなのか。遠くをみはるかす力、ではいままで見ていた夢もそうなのか? と。

「かつて、私の一族とあなたの一族の手によって魔王は封印されました、強大な力を持つ魔王は滅ぼす事ができず、結晶内部に留める事だけがかろうじてできた事だと」

「ええ、だからこそ互いの力を併せた子を成して今度こそ魔王を倒す、その為に私はここへ来たのです」

 定められた許嫁同士、子供を作りに来たという事を、レスカーテは声高に言う。もちろん恥ずかしい気持ちはあったが、今は動じている場合ではなかった。

「魔王の封印の効力が弱まるのが想定よりもずっと早かったのです、……私は、気づけなかった、まさか妹が、レーティアが魔王の手に落ちていたとは……」

 悔しそうに言うレイだが、一度もレーティアを見ようとしないのは何故だろう、神殿育ちで男女の機微にうといレーティアには想像する事もできない。

「メーディカ、今の話は?」

 本当なの? と、レスカーテがメーディカに直接問いかけると、メーディカはぽやん と、空を見つめるばかりで答えようとしない。

 時折兄であるレイに甘えたように目配せする程度で、メーディカからは会話に参加する意志が感じられない。

「……メーディカが身ごもっている事が事実であったとしても、相手が魔王であるという根拠は何なんですか」

「他に可能性が無いからです」

 そう言ってキッとレイがレスカーテを睨み返した。それまでの優しげな様子とは全く異なり、眼差しは厳しかった。兄と妹。妹を汚された思いからか、レイの怒りは勇者として魔王に向けるものとはまた異なっているように見えた。

「何か確信たるものがあるのですか?」

「メーディカが拐かされて、戻ってからの事だ」

「妹君を攫ったのが魔王だと?」

 レイは無言で頷いた。

「では既に魔王は復活していると?」

「いいえ、そうではありません」

 もどかしそうにレイが言いよどむ。レスカーテの察しの悪さに苛立っている様子は、昨日の余裕のある態度とは正反対だった。けれどレスカーテは逆に安心していた。ようやくレイの感情を垣間見たような気がしたからだった。

 レイの話では、魔王はまずレイの元に現れたのだという。

「あの絵画に描かれた姿とそっくりでした」

 レイは思い出すように一つ一つ、つぶやくように説明した。

 現れた魔王、身動きもとれず妹を蹂躙された事を思い出すだけでも見が引き裂かれるような思いである事がわかった。レスカーテにはそれ以上追求する事はできなかった。

「では魔王はもう自由に動き回れるのでは?」

「そうでは無いようです」

 そこだけはいやにきっぱりとレイは言った。

 何らかの方法で一時的に脱出したようだったと。

 つまり封印の効力は完全に消えているわけでは無いという事らしい。

「一時的に弱まっているであろう封印を再度施す為に私の協力が必要という事でよろしいですか?」

 レスカーテが問い返すと、我が意を得たりといった様子で初めてレイが安堵した様子を見せた。

 そうした隙きのようなものを見せられると、レイに対して親近感のようなものがわいてレスカーテは少し安心するのだった。
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