『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
イフリートの泉を解放せよ
 おかしなことが起きている。
 昨日の出来事の後すぐに休み朝になると呼び出されていた。
 
「何があるの?」

 夜の出来事が衝撃的すぎて、正直あまり眠れなかった。

「レイナ様、おはようございます。実は……主に急に呼ばれまして内容までは」

 兵士がメインに集められ、視界の端にはゼイニさんが眠そうに欠伸をしながら壁に寄りかかっている姿は確認できたけれど、どうしてこうも急に招集をかけたのだろうか?
 何か嫌な予感しかしない……。 だって、周りにいる人たちって小隊を率いるような方々ばかりで物々しさもあった。

 ザワザワとした感じに不安が増していく。
 そして、ラバルナが現れると一気に静かになってしまう。
 更に緊張感のようなものまで混ざり、異質な空間になりつつあった。

「すまない、朝早くから苦労をかけた。ここに集まってもらったのは各部隊長やこちらに従うと申し出てくれた村の外交代表者たちだ」

 確かに、言われてみるとどこかで見たことがある人もいるなとは思っていたが、そういうことだったのか。
 でも、これで確定した。
 これはきっと大変なことが待っているのだと、ここにいる全員がそんな感じを受け取っているのがわかった。

「薄々気が付いてい人もいるだろうが、俺たちが築き上げてきた村の限界がきてしまった……これは予期していたが、これほど早いとは予想しておらず、ハッキリ言って対策ができていないのが現状である」

 だから、合流したい人たちを今は無理やり離して、ジャマル隊による連絡を密にする方法で運営しているが、絶対どこかで限界がきてしまうし、あまりにも情報に時間差がありすぎて有事の場合には対応が遅れてしまうのはわかりきっている。

「そこで、提案がある。今の一番の問題点は水源の確保だ。それを解決する方法がある!!」

 まって、ちょっとこの流れって怪しくない? なんだか、おかしな雰囲気に生唾を飲み込んでしまう。 

「あ、主……その方法ってまさか」

 隣にいたファルスさんが額に汗を浮かべながら恐る恐る聞いてみると、返ってきた答えはその場の全員の背筋を強張らせるには十分だった。

「そう、そのまさかだ。我々の力でイフリートの泉を教王国の手から解放する!!」

「ま、待って! イフリートの泉って正規兵が警護しているのでしょ? そんな場所をどうやって解放するのよ⁉」
 
 我慢できずに発言してしまう、周囲の視線が私と彼を交互に見始めた。
 昨晩のあの不気味な存在が発した言葉が脳裏に蘇ってくる。
 
『なぁに、心配しておりませんよ……』

 意味深な言葉だったから覚えていたけれど、いったいラバルナに何をしたっていうの?
 昨日の今日で彼の考えを変えさせ固めるだけの何かがあったのは間違いない。

「大丈夫だ。俺たちは強くなった。それに敵の数は事前に調べていて把握している。百の兵が常駐しているが交代で五十人づつ交互に任務にあたっているが、敵となる存在がほぼいないために、かなり油断もしており規律も乱れた状態だ」

「でも、百の正規兵に対し私たちが勝つ見込みはあるの? イルルヤンカシュの討伐が終わってまだ日が浅いし、王都からの援軍だって考えられわ」

「王都からの援軍はほぼないと思って間違いない! なぜならば、この泉を見守ためだけに昔は五百人規模の兵を動員していたが、年月と共に縮小され今では一番の経費食いとされている場所だ。だが、簡単には手放せない……だったら俺たちがもらっても文句は言われないだろう」

 そんな簡単なはずがない、だって今でもその規模の兵が必要な理由があるはずだ。

「そんなにお荷物なら、教王国にお願いして戦わずにくださいって言ってみたら?」

 かなり挑発的な言葉にラバルナの眉が動く。

「レイナ、俺は感謝している。ここまで急激に大きくなれたことも、イルルヤンカシュを討伐できたのもレイナがいたからだが、俺にも考えがある。文句があるなら着いて来なくても構わない……」

「……」

 かなり冷淡な瞳が私に向けられた。
 どうしても胸騒ぎが抜けない、このままだと良くないことが起きてしまいそうな予感がする。
 だけど、今の彼は何かに突き動かされている。

「わかった。 私は今回の作戦には参加しないから」

「⁉」

 周りから驚きの音が聞こえてくる。
 私は一度軽く礼をして背をラバルナに向けると歩き出した。
 
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