俺様な幼なじみは24年前の約束を忘れない

*◇*◇*


長い病院の廊下を、ボクは父に抱かれて進んでいた。

下ろしてもらえないのは、降りた瞬間、ダッシュで駆け出すことを知られているからだ。

父の隣には、兄の手を引いた母がいる。

母はある病室の前で立ち止まり、トントンと扉を叩いた。

『はーい』という女の人の声が聞こえ、母は扉を開けた。

秋の陽射しが、優しく部屋の中を照らしている。

部屋には大きなベッドと小さなベッドが二つあり、大きなベッドには、隣の家に住む「由紀子ちゃん」がいた。

『由紀子ちゃん、おめでとう!
まぁ!まぁ、まぁ!なんてかわいいんでしょう!』と母が騒ぎ立てた。

ボクはやっと下ろしてもらえたのに、ダッシュで逃げ出すこともせず、そろりそろりと小さなベッドの一つに近づいていった。

だが、背伸びをしても、中を覗き込むことができない。

一生懸命背伸びをするボクに、由紀子ちゃんは、
『ここのベッドに登って見ていいわよ。』と、自分のベッドをポンポンと叩いた。

ボクは今までの中で一番丁寧に靴を脱いでベッドによじ登る。

母が寄せてくれた小さなベッドを覗き込むと、そこには小さな赤ちゃんがいた。

髪の毛はホヨホヨとしか生えてなくて、騒ぎ立てるほど可愛くはない。

しばらくじーっと見て、
『ねぇ、さわってみてもいい?』
と聞いてみた。

すると、由紀子ちゃんがニコニコしながら、『どうぞ。優しく触ってあげてね。』と言った。

手を消毒してもらって、赤ちゃんの頬っぺたをそっと触ってみる。

柔らかい。

赤ちゃんは口をムグムグさせて、ボクの指をくわえようとした。
慌てて指を引っ込める。

再びじーっと見た後、今度は小さな握りこぶしを触ってみた。

すると、パカッと手を開いて、ボクの指をギュッと握ったのだ。

ドキンとした。

隣のベッドを見ると、兄が同じように、もう一人の赤ちゃんを触りながら、真っ赤な顔で微笑んでいる。
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