エデンを目指して

出発

 白檀に付いて、銀嶺はカイラスステーションから軌道トレインでエアポートまで向かった。エアポートには銀色の三角垂の形をした、中型の宇宙船が三隻停泊している。

「白檀さん、あれは?」

「あれはウォーカーの戦闘宇宙船です。あそこで仲間が待機していますよ」

銀嶺は改めて宇宙船を眺めた。鯨型やらイルカ型の民間船の中で一際目立つ。


 二人はエアポートに降り立つと、カートに乗って宇宙船まで移動した。一隻の宇宙船のタラップに一人、背の高い厳つい男が立っていた。輝く金髪にスカイブルーの眼をした、ゴツい顔立ちの男だった。見るからに怖そうである。タラップで立ち止まった銀嶺を、さあ、と白檀が背中を押した。

「あんたが新しい隊員か? とても戦士には見えないが、まあ良いさ。俺は隊長のグリン。よろしくな」

男はそう言ってにこやかに笑うと、銀嶺の手を取って握手した。

「私の役目はここまでです。皆さん、銀嶺さんをよろしく」

「おう。任しておいて下さい。銀嶺って言うのか。良い名前じゃないか。よし、付いてこい」

グリンは船の中へ銀嶺を案内した。


 待機ルームには二人の男と犬が一頭待っていた。懐かしいその姿……間違いない!

「武蔵!」

銀嶺は武蔵に飛び付いて抱き締めた。武蔵は興奮して、嬉しそうに銀嶺の頬を舐める。

「どうして!?」

体の大きな茶色い髪の髭面の男が

「あんたの犬かい? そいつは特別訓練を受けた軍用犬だ。以前睡蓮さんが連れてきたんだよ。ところで、俺はタラだ。よろしくな」

と言って銀嶺の肩を叩く。小柄な方は少し控えめに、

「僕はトニです。よろしく」

と挨拶した。トニは小柄で痩せた、少年のような風貌の男だった。

「よろしく。私は銀嶺よ。じゃあ、武蔵も一緒に魔界退治するわけね?」

「そうだ。魔界は犬を怖がるからな。銀嶺か。良い名前だ。まあ、取り敢えず座れよ。すぐに出発だからな」

タラがそう言ってシートを叩いた。

「出発って、何処へ行くの?」

「惑星アグリだ。魔界がエネルギーフィールドに取り付いたんだ」

グリンはそう答えると、銀嶺の隣に座った。

「よし、良いぞ! 出してくれ!」

グリンがコックピットに向かって叫ぶと、宇宙船はフワリと宙に浮いた。


「もう二隻宇宙船がいたけど?」

「あれも俺達の仲間だ。一緒にアグリまで行く」

グリンはそう言って窓の外を見た。銀色の戦闘船が並走していた。

「ところであんた、何処出身だい? 地元民じゃないな」

タラが話しかける。

「地球よ。水泳のインストラクターをやっていたんだけど、魔界に心を支配された暴漢に襲われて死んじゃったの。睡蓮さんに頼まれて、ウォーカーになる事になったのよ」

「地球人か……正直、余り期待できないな」

タラはゲヘヘ、と笑った。

「あら、どうしてよ? 私が女だからかしら?」

銀嶺は少しムッとして言った。

「それもあるが、地球人てのは精神的に弱いのが多いんだ。実際、あんたを襲った奴だって、アッサリ魔界に心を奪われていた訳だろう?」

「それは……そうね」

銀嶺は溜め息を付いた。

「まあ、経験を積むうちに強くなっていくさ、地球人てのは宇宙の中じゃ若造なんだ。その位にしておけ」

グリンが助け船を出す。


「貴方達は何処出身なの?」

「俺は惑星ハシマ出身だ。自然豊かな良い星だぞ……まあ俺が住んでいた所は砂漠だがね」

グリンが笑う。

「俺は惑星シールだ。星の大半が海の、中々ダイナミックな星さ。元は船乗りだったんだ」

タラが力こぶを作って見せた。

「僕は惑星シャンバラです。都会育ちなんですよ」

トニが弱々しく笑う。

「その都会育ちがどうしてウォーカーに?」

銀嶺が訊いた。

「僕の役割は主に索敵です。体力勝負だけが戦士ではありません」

「そっか……そうよね」

「よし、自己紹介が終わったところで、銀嶺、奥の個室に着替えが置いてあるから、着替えると良い」

「着替え?」

「戦闘服さ。あの部屋だ」

「分かったわ」


 銀嶺はグリンに言われた通り、部屋へ入った。ベッドの上に服が畳んである。隣にサンドベージュのヘルメットがあった。ベッド脇には茶色のブーツが置かれている。白いタートルネックのシャツにサンドベージュの厚手のズボン、同じくサンドベージュの丈夫そうなジャケットを羽織ると、ブーツを履いて、銀嶺は姿見の前に立った。戦士と言うより、何だかパイロットみたいだが、これがアストラル宇宙での戦闘服なのであろう。ヘルメットを掴むと、銀嶺は部屋を出た。


「おう。中々似合うじゃないか」

グリンが銀嶺の肩を叩く。

「ありがとう。それで……私は何をしたら良いのかしら? 武器は?」

「ちょっと付いてこい」

グリンはそう言うと、武器庫へ向かった。武器庫には、剣やら斧やら、物々しい武器が棚に立て掛けられていた。

「お前のはこれだ」

グリンはそう言って一本の剣を掴んだ。黒い柄には、エメラルドとおぼしき宝石が嵌め込まれている。

「抜いてみろ」

グリンから剣を受け取った銀嶺は、思い切って鞘から剣を抜いた。思っていたよりも軽いその白銀の剣は、微かに震えている様だった。

「この剣……」

「分かるか? これはな、持ち主のアストラルエネルギーに共鳴するんだ。持ち主のアストラルエネルギーの属性に合った技を繰り出すことが出来る。まあ、すぐには無理だかな。慣れてきて、剣がお前を信頼する様になれば出来るさ」

「剣が信頼?」

銀嶺はいぶかしんだ。物である剣に感情があるとでも言うのか?

「まあ、いずれ分かるよ」

グリンはそう言うと、白い歯を見せてニイッと笑った。


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