契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
和臣の困惑
 佐々木総合法律事務所の個室で業務に打ち込んでいた和臣は、デスクの上の電話がルルルと鳴ったことに気が付いて、パソコンを打つ手を止めた。
 事務室からの内線だった。
 和臣はパソコンの画面からは目を離さないままに受話器を取る。

「はい、瀬名です」

『川西です。三好コーポレーション様との面談の予定ですが、八月二十五日にお入れしてもよろしいですか。先方が希望されていまして』

 そのどこかつんけんした物言いに、和臣は思わず顔をしかめる。
 渚の先輩にあたるこの川西愛美は、以前はいつもテンション高く、和臣の気を引こうとしていたように思う。
 だが渚との結婚を機にがらりと変わった。
 和臣は卓上のカレンダーに視線を送って口を開いた。

「いや、その時期は私は夏季休暇中だ。別の日で調整して」

『でも……』

 渋る愛美に和臣は心の中で舌打ちをした。そもそも弁護士のスケジュールは事務所内全員で共有されている。よほどの予定でない限りは、休暇の日を避けてアポイントを入れるというのは、あたりまえのことなのだ。
< 140 / 286 >

この作品をシェア

pagetop