おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「……赤い」

たったそれだけの仕草で、リサの全身がジルベールに向かって抱きつきたいと訴えてくる。
それを理性で必死に抑え込み、唇を噛み締めてただ立ち尽くすしか出来ない。


「ジル…」
「俺は君を逃さない。絶対に」


意味もなく名前を呼べば、目元に触れていた指先が耳を包み込むように広げられる。
その時。


「リサー!ここにいたのね!」
「あっ…」

バラ園に足を踏み入れてきたのは、メイド服姿のシルヴィア。

2人が一緒にいるところを間近で見るのは想像以上に辛く直視出来そうにない。

しかしそれ以上に彼女がドレス姿の自分をジルベールの前で『リサ』と呼んでしまったことに焦るが、シルヴィアは何事もなかったかのようにジルベールに膝を折る。

「ジルベール様、彼女を一旦お返し願えますか」
「……あぁ」
「ふふ、では後ほど。リサ、行くわよ」

何がなんだかわからないままシルヴィアについて行く。彼女はジルベールが入れ替わりに気付いていると知っていたのだろうか。

自分が知らない所で、シルヴィアとジルベールが秘密を共有していた。そう考えると、大恩あるシルヴィア相手に嫉妬の炎が燻りだす。

リサは慌てて自分の思考を振り払う。何を考えているのだろう。ジルベールが早々に入れ替わりに気付いてしまったことを黙っていたのは自分だ。

シルヴィアがそれを知ったことをリサに黙っていたからといって、シルヴィアを妬むなど言語道断。
ブンブンと頭を左右に振っているリサを見て、シルヴィアが怪訝な顔をしていた。





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