おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「いつか、この子と3人でレスピナードのバラ園にも行こう」
「…3人で」
「あぁ。家族3人で。あの美味いパン屋にも行きたいな」

ガタガタと大きな音を立てて馬車は進む。リサはこの馬車で初めてジルベールに出会った時のことを思い出していた。

『毎日平和で健康で、お互いだけを愛し合っている人が側にいる。私だけの家族。私はお金より、そっちのほうが大切に思えます』

そんな言葉に怪訝な表情をしていたジルベールの腕の中で幸せに浸る自分。憧れていた自分だけの家族。

陽が沈み、春の少し冷たい風がリサの艶のある黒髪をなびかせる。頬を寄せたジルベールの胸元から、爽やかな柑橘系の香りがした。


――――ここが、私の居場所だ。

リサは幸せに涙腺が緩みそうになり、ゆっくりと目を閉じた。





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