おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

暗さに多少目が慣れてきても、視界の中にリサの姿はない。
呆然としてしまった頭を働かせ、リサの言動の真意を辿る。

彼女は以前から決めていた通り城を出ると言い切った。そして、シルヴィアと幸せにとも。
それはジルベールの気持ちを受け入れられないという思いの表れなのだろうか。

リサは初め自分を王子だと思っていなかった。王子だと知るや否や急によそよそしくなった。

それでも『側にいてほしい』と言葉にして、初めて会った日の夜に衝動的に伝えてしまった通り、ここを出るのなら自分が国へ連れ帰ろうと思っていた。明日の夜全てを打ち明け、そう公爵に願い出るつもりだった。

出会ってからの日数など関係ない。
リサが好きだ。愛しくてたまらない。そばに置き、片時も手放したくない。そう思って昨夜この場所で彼女を抱きしめ、涙する彼女に口付けをした。

自分の気持ちを主張するのが苦手なリサの気持ちを汲んでやるには、ジルベールは圧倒的に女性を知らない。
それでもリサがこうして強く城を出ていくと言い切ったその背景には、きっと彼女自身のためではない何かがあるのではないかとジルベールの男の勘が訴えている。

無理矢理結婚させられそうな主人に頼まれ衣装を入れ替えたように。転んで泣いてしまった少女に自分はお腹いっぱいだからと優しい嘘でジュースを譲ったように。

彼女は自分のためじゃなく、誰かのために城を出ていく気なのではないか。そう考え出せば、そうだとしか思えなくなる。

慎ましく優しい天使のような娘。そんな彼女をジルベールは短い期間で知っていた。

もっと甘えていい。自分の意見を言っていい。そう告げたのは彼女が自分よりも周りを優先してしまうからであって、決して自分から離れる決意をさせるためではない。

ジルベールは自分の元から飛び立ってしまおうとしている天使をなんとか引き留めようと、ある人物の元へ向かった。





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