エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
初恋が消える夜
連れて来られたのは、大通りから一筋道を外れた場所にあるとてもお洒落なカフェバーだった。ブラウンウッドの木材をふんだんに使った内装に南国風のインテリア、オレンジ色の照明が大人っぽい雰囲気を作り出している。各テーブルの上には背の低いガラスの一輪挿しに花とグリーンが一本ずつ飾られていた。
「こんなお店、知りませんでした」
結構、この辺りはウロウロとしているのに、知らない道の知らない店だ。店内を見渡しながら言うと、高野先生は「ふうん」と小さな声で呟く。
彼は頬杖を突きながら、テーブルの端に置かれている黒い表紙のサイン帳のようなものを手に取った。
向かい側に座る私にも見えるように、テーブルの中央に置いてページをめくる。手作り感が可愛らしいメニュー表だった。
「何が食べたい?」
「えっと……どれも、美味しそうです」
サラダだけでも十種類、肉料理に魚料理と単品料理が続き、人気のある料理にはご飯とスープ、ミニサラダがついたセットにもできる。
「魚より肉の方が好きだよな」
「え、はい」
よく知ってるなあと思いながらも気にする間もなく、すぐに次の質問が飛んできた。
「牛肉のカルパッチョが美味いよ。鶏の刺身も美味いけど、生の鶏っていけるほう?」
「食べれます」
「オッケー。サラダはどれがいい?」
次々と私の好みを聞き出しながら料理を決め、カクテルが美味いからと勧められるままにオーダーが終わった。
駅で会ってからここまで、勢いで押し流されてきたような感覚で何やらどっと疲れを感じる。そのせいか、カクテルがすぐに運ばれてきてひとくち飲むとほうっと力が抜けた。
「……美味しい」
生の苺を軽く潰したものがお酒に混ぜられていて、爽やかな甘みと酸味が口の中に広がる。透明なグラスに入っていて、苺の赤と飾られたミントの葉で女性の喜びそうな見た目にも仕上がっている。
直樹さんから連絡があるまで、あまり酔いたくはないけれどちょっとくらいはいいだろうか。ついつい、もうひとくちと進んでしまう。
シャンパンと一緒に崩れた果肉が流れ込みするっと舌の上に乗って、ほどよい香りと甘さがじゅわりと口内に広がった。
高野先生の存在も忘れカクテルの味にうっとりとしかけて、視線を感じて正面を見る。高野先生とぱちりと目が合った。
――み、見られてた?
間違いなく、緩み切っていた顔だったと思う。彼はぱっと斜め下に視線を外して、モヒートのグラスを口元に持っていく。