毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「はっ……こんなに可愛い子にそんな顔されたらついうっかり代わりに受けてしまう……私を見つめないで!やめて!やめないと言うならば奥の手を使おう……そう、逃げる!」


見つめ合うこと数秒、私を抱きしめていた女子は腕を瞬時に解き、逃亡宣言をしてから近くにいた女子に抱きついた。


女子というものは抱きつくのが好きらしい。


……今回は私が発端なんだけどね。


どうやらさっきの渾身の演技は刺激が強かったらしい。


逃げた女子が次にどのような行動に出るか見ていたところ、こちらと一切目を合わせるつもりがないらしく、友達の胸に顔を埋めている。


……私でこの状態なら天使がやったら流血沙汰になるのでは?


「んー、逃げられちゃった……。仕方ないなぁ……頑張って自分で受けようーっと!」


これ以上の相手方の動きはないと踏んだ私は一旦、乱れた場を落ち着かせるために大きめの、誰に投げかけるでもない言葉を放つことでこの茶番に幕を下ろした。


はぁ……。


空気を読む、流れを作るというのは本当に疲れるし面倒だ。
昔の自分に戻りたい。


……おっと、気の緩みは演技の緩みに繋がる。これはよくない。


思わず出そうになったため息を慌てて飲み込む。


心を切り替え、ニコニコっと改めて笑みを浮かべ、逃げた女の子の肩を人差し指でとんとんとつつくと、こちらの意図した通り女の子は友達の胸からゆるゆると顔を上げた。


「冗談だよ〜、ごめんね?テスト、お互いに頑張ろーね!」


そう言った途端に、無言でがばあ!っと飛びつかれ、今度はぎゅうううっと強めの抱擁をされた。


いろんな人にハグして忙しい子だな……って、く、苦しい。


誰か止めて……。


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