都合のいいふたり
同居の始まり @半年前
高校卒業の春、母が天国へ逝った。

母子家庭で育った私は、天涯孤独になるはずだった。
当然、周りの大人達は、私の身を案じていた。

でも、そんな心配を余所に、私は「金持ちの娘」になった。

大学進学を機に東京へ上京した私には、一度も会ったことのない父によって、普通の学生には不釣り合いな高級マンションと、到底使いきれない毎月の生活費が用意されていた。

「自分の境遇や人生を悲観しないで、与えられるものは、感謝して受け入れなさい。」
と言った母の遺言に従い、私は全てを受け入れた。

父のことや今までの経緯を父の会社の顧問弁護士さんから聞いたことはあるけど、未だに父には会っていない。

大学を卒業して働き始める時、毎月、連絡をくれる弁護士さんを通して、今までの援助を全てお断りするつもりだった。

でも、弁護士さんから「あのマンションは、せめてものお父様のあなたへの愛情の形なのだから、住み続けてあげて欲しい。」とお願いされ、私は今もそのマンションに住み続けている。

「愛情表現の下手な人だな。」と会ったこともない父と、人付き合いが苦手な自分とを重ね合わせて、複雑な気持ちになったことを覚えている。

弁護士さんからの毎月の連絡は今も続いている。
「御用の際は、ご遠慮なく、いつでも連絡をしてください。」
この10年、私から連絡をしたことはないけれど、他に頼れる人がいないのも事実なので、この言葉は心強い。

弁護士さんの話によると、これはお母さんが自分の残り時間を知った時、すぐに父へ連絡を取り、私の将来のために用意してくれた「二人の約束」の形でもあるそうだ。
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