都合のいいふたり
歩の気持ち
涼介から映画に誘われた。
休日に男の人と太陽の下を歩くなんて、いつぶりだろう。
世の中の同居人は二人で出掛けることなんて、あるのだろうか。
趣味が合って時間があれば、別に普通のことなのか。

「休日に映画を観に行く」ことは、「平日の仕事帰りに飲みに行く」こととは、全く異質だと思う。

考え過ぎ?

学生時代に付き合った彼氏に言われたことがある。

「あゆの考えてることが分からない。俺のこと、どう思ってるの?」

付き合って3年以上が経った後の恋人の言葉とは思えない。

私はいつも人との距離感を図れず、人間関係を複雑にしてしまう。そして結局、そんな自分に疲れて、一人でいることを選んでしまう。

本当は、傷付くのか怖いだけの臆病者が虚勢を張って、一人でも大丈夫な振りをしてるだけだった。

そんな私に涼介は、絶妙な距離感で向き合い続けてくれた。

だから、「元の私達」に戻った後も寂しさを感じることはなかった。

あの夜の出来事は、私から誘ったのだから、涼介が「忘れたい」と言えば、私はそれを非難できる立場ではなかったし、気不味ければ、「家を出る」という選択肢もあったはずだ。

私は、彼がこの家を出て行き、温かいと感じた居場所をまた失う覚悟もしていた。

「また元通りの1人に戻るだけだ。」と自分に言い聞かせて。

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