運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
これから告げられる事実はきっと言いようのない悲しみや絶望を味わうことになると二人はわかっている。でも心の中に捨てきれない一筋の希望がまだ残っている。

悟はお腹のジェルをふき取られた綾乃が体を起こすのを手伝った。

診察台から立ち上がる綾乃の体をそっと背を添えて支える。

綾乃は何も言わずに立ち上がり、そっと悟の手を握った。

その手が震えていることが分かる。
でもその震えが綾乃なのか、悟なのか分からない。

二人は沈黙のまま診察室の椅子に座り、手を洗う医師のが再び席に戻るのを待った。

「前回は4週間前の診察でした。その時は心臓が動いていることがしっかりと確認できました。でも、今回の超音波検査では心臓の鼓動を確認することができませんでした。詳しくこの後血液検査も行いますが、残念ですが薄井さんの赤ちゃんはお腹の中で亡くなっています。赤ちゃんの大きさから言って、亡くなったのはここ数日と思われます。」
医師の言葉がやけに遠くに感じる。これは現実ではないのかもしれないと、信じられない現実に思いたくなる。
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