運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
「願ってる。綾乃の幸せ願ってる。ずっと謝りたかった。ごめん。」

綾乃はさらにどろどろとした感情に心が支配されていくような気がした。

きっとこの人は私に謝って、過去から解放されるのだろう。
幸せな家庭がある。一人じゃない。
そう思うと今自分の置かれている状況が余計にみじめで孤独に思える。

「・・・」

こういう時に、どろどろとした感情を殺して、愛想笑いと社交辞令の一言でも言えたらいいのかもしれない。

でも大人になり切れていない心がそんなことを許さない。

綾乃は逃げるように、扉があいたばかりの電車に乗り込み、哲史の方に背を向けたまま唇をかみしめた。

さよならも言えなかった・・・。ちっぽけな自分・・・。
< 66 / 349 >

この作品をシェア

pagetop