「この日が待ち遠しかったです」

紋付き袴姿の彼が、私へと手を差しだす。

「……ううっ、私は緊張してるのに、なんでそんなに余裕なんですか」

打ち掛けの裾に気をつけ、彼の手へ自分の手をのせて立ち上がる。
今日の花嫁衣装は祖父と父が丹精を込めて私のために作ってくれたものだ。
絶対に汚すわけにはいかない。

「可愛いですね、本当に貴方は」

ころころと愉しそうに彼が笑う。
どうも一回りも年上だと、その手の内でいいように転がされている気がしないでもない。

「では、行きますか」

彼に促され、一緒に控え室を出る。
もしあの日、私があんなことしなければ、彼と結婚なんてしなかったんだろうか。
神殿のドアが開くのを待ちながら、あの日のことを思いだしていた。



その日のことはいまでもはっきりと思いだせる。
蝉のうるさい、夏の暑い日だった。

「父さん、お茶淹れるけど……」

作業が一区切りし、顔を上げたら父はそこにいない。
それほど、集中して作業をしていた。

「ま、いっか……」

一度、大きく伸びをして凝り固まった身体をほぐす。