東京滞在の残り二日で漸の生活向上に必要なものを買いに行けたら……とは思ったものの。

「すみません、鹿乃子さん。
金曜は午後からゆっくり、有坂のご家族にお土産を買って金沢へ帰るつもりだったんですが、無理そうです……」

はぁーっ、と朝食を食べながら陰気なため息が漸の口から漏れる。
あのゴリラお父さんは漸が店を辞めるその日までこき使いたいらしく、客をどんどん入れてきていた。

「もういっそ、店のことなんか無視して今日にでも辞めたらどうですか?」

漸があの店の面倒を見ることはないと思う。
育ててもらった恩、とかいうのなら、もう十分すぎるほど返している。

「そうできたらいいのですが、本当の私自身のお客様にご迷惑をかけると思うとですね……」

はぁーっ、とまた、苦悩の濃いため息が落ちた。
嫌な接客など断ってしまえばいいが、そうすると漸のお客様の仕立てを後回しにするだとか、売り掛けの拒否だとかちらつかされて、漸もままならないらしい。

「まあそれでも、今日からはこれがありますから」

漸が嬉しそうに、自分の左手薬指に嵌まる指環を見る。