モスキート

昨夜は月が明るい夜だった。
うだるような暑さ。
湿った重たい空気が身体中に纏わりつく不快な夜。

私たちは追いかけっこをしながら甘い会話を楽しんだ。

「俺達の命は短い。君に出会えて良かったよ・・・」

たくさん求愛された中から迷いなく彼を選んだ。
私たちは宿った命を育むためにはどこが安全か、どんな風に育てようか、夢を持って語り合った。


その数分後、愛する人は目の前で殺された。


アイツは私達の気配に気づいていた。
音を消し、動きを止め、五感を総動員して所在を探っていた。
きっと娯楽のひとつにすぎなかっただろう。
鼻唄を歌っていたから・・・

無邪気さと残忍さは背中合わせ、手中に入ったら最後、生きては帰れない。
瞬時にして体の原型は跡形もなくなる。


知っていたはずなのに、彼は飛び出した。
アイツの視線が私を捉えるその直前に・・・・・・
ピンと張った静けさの糸を断ち切った。体中で大きな音を鳴らし、注意をかっさらった。

そして、今私が生きている。 
彼はいない。



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