泣きたい訳じゃない。
初対面と契約書 @拓海
いよいよ、高田雅治さんと会う日が来た。
今までにメールや数回の電話でやり取りはしているので、彼の仕事の展望や進め方は、大体は把握しているつもりだ。

頭の回転が速い人なので、俺としても仕事は進めやすかった。

でも、対面するとなるとやっぱり緊張する。
普通の取引先でも初対面は緊張するのに、ましてや莉奈の兄となれば、俺の緊張はMAXだ。

向こうは、俺と莉奈の関係は大学の先輩後輩だと思っているけど。

俺が高田さんのオフィスに出向くことになっている。

仕事も手に付かなくなって来たので、現地で雇っている日本人の事務の人に声を掛けて、オフィスを出た。
彼女は、カナダ人の男性と結婚して、もう10年以上、バンクーバーで暮らしている。
日本とカナダの両方の事情に精通していて、とても助かっているし、オフィスの留守も安心して任せられる。

俺は、海沿いにある高田さんのオフィスまで歩くことにした。
メインストリートを避けて、海に近い通りを歩くと、時々抜ける風が心地いい。
バンクーバーの夏は日本のような蒸し暑さもなく、こうやって歩くには最適だ。

公園に行けば、自然が溢れていて、綺麗な花壇や広い芝生があり、大人も子供ものんびりと過ごしている。

俺もいつか、家族であんな風に時間を過ごしたいと思う。その相手は莉奈に決まっているのだけれど。

先週、莉奈から「高田彩華」の名前が出た時は、心底驚いたけど、莉奈の兄が高田ホテルズの義理の息子だと知った時から、いつかこうなるんじゃないかとも思っていた。

莉奈は俺達の過去までは知らないようだったけれど、いつバレるかも分からない。

次、莉奈に会った時に、彩華とのことをちゃんと話さなければと思っていたけど、先に二人が会ってしまうとは・・・。

俺の動揺が伝わったのか、莉奈の様子もおかしかったし。
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