泣きたい訳じゃない。
「ロスの頃、電話で聞く拓海の声は優しかったな。私はあの声を聞く度に、拓海に会いたいと思ってた。」

「今は違うの?ロスの時はまだ付き合ってもなかったし、そもそも莉奈なんて俺の顔もまともに覚えてなかったのに。」

「違う訳じゃないよ。でも、何か感傷に浸りきれない感じ。『感傷』って、遠距離恋愛の醍醐味でしょ。」

「莉奈は遠距離恋愛を楽しみたいの?」

「どうせならね。『寂しい。』って泣いてる女の子はモテるらしいよ。」

「それは隙だらけってことだろ。何、考えてるんだよ。」

拓海がどんどん不機嫌になっていく。指でトントンと叩き始めるのは、イライラし始めた時の拓海の癖だ。

拓海に会いたいって願いは当分叶わない。

「私はただ、寂しさに支配されるのが嫌なだけ。この二年間、拓実がいるのが当たり前だったけど、そうじゃない時もちゃんと楽しみたい。」

遠距離になることは付き合い始めた時から分かっていた。それでも、私はこの時が来ないで欲しいと願ってしまう、拓海の仕事を心から応援できない最近の自分が嫌だった。

「莉奈らしいな。」

拓海が思う私らしいって何?
本当は格好をつけて強がるのは、拓海に別れを切り出されるのが怖いだけなのに。

「私はロスの頃のように、拓海を応援できる自分になりたい。」

「俺、仕事頑張るよ。それに、ここでの生活も楽しんでみるよ。次、莉奈と会う時までに莉奈より街のこと詳しくなれるぐらい。」

「そうだね、でも、女の人と楽しむのは無しだからね。」

拓海なら、世界中のどこへ行ってもモテる気がする。

「当たり前だろ、少しは俺を信用しろよ。莉奈こそ、浮気するなよ。」

「しないわよ。寂しくなったら、拓海との夜を思い出すから。」

最後はやっぱり無理に笑って、電話を切った。

私は素直じゃない。
< 6 / 70 >

この作品をシェア

pagetop