訳アリなの、ごめんなさい
2章
皇太子妃の到着が知らされたのは正午を過ぎた頃だった。

私は侍女達と共に、部屋に案内されてきた彼女を迎えた。

その姿をひと目みて、なるほどと息を飲んだ。

艶やかな黒髪に、蒼い瞳が印象的な南国出身らしいエキゾチックな顔立ち、我が国にいないタイプの美人だ、これは王太子殿下が一目惚れするのもわかる気がする。

「遠路のご移動、さぞおつかれでございましょう。殿下のお相手をさせていただきますアリシア・コーネリーンと申します。」

一歩前に出て、胸元に右手を当ててわずかに腰をかがめて頭を下げる。

これが、彼女の故国流の王族に対する礼なのだ。

私のその挨拶に、妃殿下が小さく「まぁ」と息を飲むのが聞こえた。

「セルーナ・ジ・ベルシアーズ・オルレアです。どうぞよろしく」

柔らかな高音の声で歌うように挨拶すると、黒い扇のような睫毛がパチリと瞬き、さらに彼女を魅惑的に見せた。


「祖国を離れ心細い時も有ろうと思う。アリシア嬢は、オルレアに住んでいたこともある御令嬢ゆえ、遠慮なく祖国について語られるといいだろう。」

迎えに出て、ここまで案内をしてきた皇太子が、優しく彼女に笑いかける。

今朝から落ち着かず何度もこの部屋を行き来して、妃殿下付きの侍女のユーリーンに邪魔だと放り出されていた人とは思えないほど、紳士の顔をしている。

「まぁオルレアに?それで、、、」
少し驚きながらも、納得したように妃殿下が美しいブルーの瞳を私に向ける。


「はい、3年ほどですが父が外交官をしておりましてセネルに」

セネルとはオルレアの王都で、貿易の要所なのだ。


「まぁそうでしたの?ではどこかでお会いしていたかもしれませんわね」

「そうですね」
嬉しそうに笑う妃殿下につられて私も笑みがもれる。

しかし


恐らく初見であろう。こんな美人、見てたら絶対に覚えているはずだ。

少し彼女の様子が和らいで、明らかにホッとしたような表情を見せる殿下を、隣の事務官が肘で小突く。

「そ、そしてこちらが、姫のお世話をするユーリーンです。何か困った事があったら彼女達が助けになるよ」

優しくそう言うと、妃は殿下を見上げる。

「お心温まるご対応をいただきありがとうございます殿下」

丁寧に礼を取ると、可憐な笑顔をのぞかせた。


「いえ、夫として、異国から来ていただいた貴方に少しでも穏やかに生活をしていただきたいのです。わたしにも遠慮なく甘えて下さい」

そう言って彼女の手を取ると軽くキスをして

「では、わたしはこれで!
今日はゆっくりお休み下さい」

優しい笑みを残して、なんとも潔く、取り巻きを引き連れて退室していった。

朝からソワソワ落ち着かなかったあの姿はどこへ消えたのだろうか。

内心呆れながらその姿を見送ると


扉の外にチラリとブラッドの姿を目にした気がする。
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