「うおおおお!」
明らかに体格に合っていない"三輪車"を窮屈そうに漕ぐ祐介。
ペダルも車輪も小さく、漕いでも漕いでも思いの外進まない。
50メートルほどの距離が果てしなく遠く感じる。

「ペダルはつま先で蹴るようにして漕ぐ。」
亮輔も細かくペダルを漕ぎ、的確に進んでいく。

「少し差が開いてきましたね。」
女神が2人を上空から見つめる。
次の"箱"が待ち受ける所まで半分ほどを過ぎ、リードしているのは祐介。

「"三輪車"で負けるのは想定内。できれば"平均台"でリードしておきたかった所だけど、、、。」
祐介の背を見つめる亮輔。力任せではあるが土煙が上がる程のパワーの脚力を見せる祐介の漕ぎ。
脚力の差。ペダルを漕ぐ回数、『回転数の差』が明らかに出てきている。
「ここでは一定以上の差が出来ないようにキープすればいい。"ハードル"、"跳び箱"ともに大した差は出来ないだろう。問題は次!」
亮輔は懸命に漕ぎながら"箱"を見つめる。
「"仮装"と言ったが、おそらくここに入っているものによって"ハードル"や"跳び箱"の難易度も変わってくるだろう。」

「うおおおお!」
普段使わない筋肉を使い、腿がパンパンに張るようにいたい。
それでも祐介は休まず漕ぎ続け、10メートル程のリードで
先に"箱"が置いてある机の前に到達する。
「ハァハァ、、、。」
さすがの祐介も疲れの色が隠せない。
後ろを振り返ると、キコキコと亮輔が迫ってきている。
「まずいのぅ。」
祐介は紫色の"箱"を両手で掴み持ち上げた。
「なんじゃ?これは??」

少し遅れて亮輔が"箱"に到達した。
その少し前になにやら女神から説明を受けて、一式箱の中身を持って『更衣室』へ入って行く祐介の姿が見えた。
この中身は生着替えがし難い、着にくいものなのか、
はたまた着ぐるみのように、走りにくいものなのか。
亮輔も先を行ってしまった祐介を早く追おうと覚悟も決まらないまま、あわてて『?』の書かれた"箱"を持ち上げた。
「なんだ?こりゃ??」
そこには茶髪でカールの巻かれたカツラのようなもの、フリルの付いた明らかに女性物の服。
なぜだか化粧道具まで揃っている。
「、、、これに着替えろと?」
「はい。」
「これは"仮装"ではなく"女装"だろう?」
「仮の姿という意味では"女装"も"仮装"の一種ではないでしょうか。」
亮輔は女性物の服を手に持ちながらプルプル震えている。
そこは中学生。さすがに"女装"には抵抗がある。
「祐介はどんな"仮装"をするんだい?」
しかし、プライドよりも今一番気になるのは相手の事。
「そこは公平を期す為、両者ともに"女性もの"を用意してあります。」
それを聞いた亮輔。
「化粧は自分スタイルでいいんだな!?」
「はい!」
プライドを捨て勝負に出た。

「う〜〜む、こうかのう?」
派手な紫のアイシャドウを塗り終え、ピンクのチークを頬に塗る祐介。
「女というものは大変じゃのう、、、」
ポーチから口紅を取り出し、
「とりあえずあるもんは全部使っとけばええじゃろう!」
ぐっと握り、大胆にクレオンのように唇に塗りこむ。
「いや〜〜楽しいのう!」
楽しそうに手鏡と向き合いながら、ふと思う。
「亮輔との戦いは楽しいが、わしは愛の為に勝たねばならんのじゃ!」


祐介が戦う理由。それはもちろん梨緒の為。
祐介が梨緒を意識しだしたのは中学2年の秋。
先輩がたが卒業し、新人戦を終える頃には本格的に祐介の実力が認められ4番バッターの地位を確立していた。
この頃、注目を浴びるようになっていた祐介にはファンが増えてくる。
「しかし祐介先輩モテモテですやん!」
後輩が羨ましそうに祐介を茶化す。
「そうかのう?全然実感わかんが?」
練習終わり、ユニフォームを着替えながら祐介が答える。
「いや〜実際、俺のクラスの女子なんて、みんな『祐介先輩が』『祐介先輩が』って騒いでますよ〜。」
実際祐介が実感が沸かないのも無理はない。
この時点でまだ告白をされた事も無く、ただ水面下で『ファン』と言うだけ。
そんな彼女達が祐介に告白出来ないのには理由があった。
「そんなあいつらがいっつも聞いて来るんすよ〜。『祐介先輩と梨緒先輩は付き合ってるのか?』って。実際どうなんすか?そこんとこ。」
そう。すでに目立つ程の美貌を持っていた梨緒。
そんなのがいつも側に居たんじゃあ勝ち目がない。
「梨緒?!どうもなにも、幼馴染みとしか言いようがないわい!」
ユニフォームを脱いだまま、上半身裸の祐介が驚いた様子で後輩の問いに答える。
「いや〜でも、実際祐介先輩が他の女の子と話してるの見た事ないですし、実際かなり噂になってますよ〜。」
確かに梨緒とは話しやすい。それは幼馴染みだからとしか祐介は考えた事が無かった。
「実際、梨緒先輩も祐介先輩の事が好きなんじゃないですかね〜。」
後輩が「このう!」というように肘で祐介の脇腹をつつく。
「、、、そうなんか、、、それは気付かなんだ、、、。」
祐介は「確かにわしとおる時は楽しそうな顔をしとった気がする」と梨緒の猫のような無邪気な笑顔を思い出していた。
「それはすまんことをした。」
その笑顔の裏に隠された想いに気付いてあげれなかった事を祐介は悔やんだ。
「で、実際祐介先輩は好きなんすか?」
祐介は筋肉質な大きな背中を丸くし顎を親指と人差し指でつかみ、眉毛をハの字にしながら斜め上を見上げ考えてみる。
「、、、実際、確かに話しやすいし。」
「好きなのかもしれん、、、」
後輩の顔がパーっと明るくなる。
「なら両想いじゃないっすか!!じゃあ付き合うしかないっすよ!!マジお似合いっすもん!!」
先輩という事も忘れ、上半身裸の祐介の二の腕あたりをパンパン叩く。
「そうなるんかのう。」
祐介も恥ずかしそうに頭を掻きながら、しかし、顔は照れなのか、喜びなのか、いつになくニヤけている。
「そうと決まれば即実行っすね!今日帰りにデートに誘いましょう!」
「今日じゃと!?」
祐介は未だ上半身裸のままオタオタあわてる。
「じゃあ、早く着替えて!マネージャー陣もそろそろ終わるはずですから!」

「心の準備はいいですか?」
しっかり学ランに着替え、校門から梨緒の帰りを待つ、祐介と後輩。
セーラー服姿の梨緒が校門にやってくる。
「さあ!」
後輩が背中を「ドン!」と押した。
「おっと!」と声が出そうなほど仰け反って、梨緒の前に立った祐介。
「お、おう!」
つい、しっかり目を見つめてくる梨緒の目線から目をそらしてしまう。
「お、おう!」
梨緒はにんまりと猫のような笑顔で祐介の真似をするように返す。
祐介は校門の後輩に助けを求めるように振り返る。
後輩は「頑張れ!」と小声で言っている。
「?」
梨緒がにんまり笑顔のまま首を傾げてこちらを見つめてくる。
顔を真っ赤にしながら下を向き、満を辞して声を発する。
「め、飯でも食いにいかんか?!」
梨緒の表情が気になるがどうしても今日は梨緒の顔が見れない。
横やら上やら目線を逸してしまう。
「ん!いいよ!」
その返答に嬉しさのあまり思わずくるっと回ると「どうだ!」と言わんばかりに後輩の方へガッツポーズを見せる。
「じゃあ、亮輔にも連絡してみるね。」
「ん?」
後輩の方へ向いてる間に梨緒はスマホを取り出し、亮輔へ電話を始めた。
「ん?」
一瞬パーっと笑顔を見せた後輩も梨緒の行動に、しかめっ面で目を凝らして梨緒を見つめる。


「両想いのわしらを亮輔がいつも邪魔をした。」


「梨緒!帰りゲーセン行かんか!?」

祐介と梨緒がUFOキャッチャーをしていると、
「おう!祐介!梨緒!」
なぜかやって来たり。

「梨緒!一緒に帰らんか!?」
2人で一緒に帰っていると、
「おう!祐介!梨緒!」
帰りのコンビニの前で出会ったり。


「その後、亮輔も梨緒の事が好きじゃと噂で効き、『なるほどのう』と思ったが、梨緒が好きなのはこのわし!そこは梨緒の気持ちを尊重してやらんとのう。」