トライアングル 上

サーッ!
先にカーテンを開けたのは亮輔。
白のフリルのついたミニスカートをはき、上はカラフルでPOPな文字で彩られた黒のTシャツ。
筋肉質な足に不釣り合いなニーハイを履き、足元は茶色のファーの付いたブーツ。
頭には茶髪のギャル風なカツラ。
顔は、アイシャドー、アイライン、チークに、口紅まで
嫌気が差さない程度にしっかりと決め込んである。
「いや〜、実に美しいではありませんか。」
元々どちらかというと女顔の亮輔。実際体格は男であるものの、細見であり似合っていた。
「、、、このミニスカート。短すぎやしないか?」
ニーハイで大分足は隠れているものの、股のあたりがスースーする。
「女性はみなさんそうですよ。」
「、、、。」
「、、、化粧は必要か?」
"女装"をしてみるとやはり恥ずかしいのか中々突っ立ったまま進もうとしない亮輔。
「女性といえば化粧!必需品じゃありませんか!」
その時、正面の更衣室がモゴモゴ動き出した。
「ヤバい!」
亮輔は赤のハチマキを巻き、そのまますぐ横にあるパンのぶら下がっている棒の下に移動した。

サーッ!
祐介のカーテンが開く。
黒いチェックのミニスカートに、上は薄いピンクの地で
大きな水玉のリボンのついたシャツをピチピチに着こなし、ハイソックスにピンクのスニーカー。
カツラは黒のロン毛。清純派のアイドル風な出で立ち。
それに不釣り合いなマッチョな身体。
さらにアイラインから口紅まですべてコテコテに濃く、
とても女性とは言い難い風貌。
「、、、。」
その異形さに思わず押黙る女神。
「、、、。」
「、、、よし!」
お互いどうしていいか分からずちょっとした沈黙の後、
やる気満々の祐介が亮輔を追うように"パン食い競争"に
突入した。

両手をブランと下に下げ、パンにカブり付こうとする亮輔。
パンは両者ともに上を向いてちょうど歯が当たらない位の位置に吊るされていて、「ピョン!」と跳ねると、
歯に当たり弾かれてしまう。
「これは意外と難しいぞ!」
亮輔は弾かれたパンの揺れが収まるのをゆっくり見極めている。

祐介はというと、
「ガーっ!」
口を開きっぱなしでピョンピョンジャンプ。
パンも糸もブンブン振り回されている。

「しかし、よく考えると"女装"してピョンピョン跳ねてる姿ってめちゃくちゃ恥ずかしくないか?」
亮輔は一瞬我に帰り、隣の祐介の姿が気にかかる。
「ガーっ!」
隣ではカワイイ格好に女装したような"何か"が
フワフワスカートを揺らしながらピョンピョン跳ねてる。
「、、、。」
「なんだ?あれは??」
とてもセクシーともカワイイとも程遠い姿。
自分もあんななのか?
とても自分の姿が気になる。それよりも一番感じた事。
「、、、早く終わらせよう!」

「ガチン!」
祐介がパンを歯で咥えた!
しかし無情にも端が千切れただけ。
高さがさらに上がってしまったパンに悪戦苦闘。

亮輔は何度かのトライで少しコツを掴んでいた。
「まずはパンの動きを止める事。」
パンの動きを鼻先でしっかり止める。
「そしてパンは『かぶりつく』のではなく『咥える』。」
亮輔は大きな口を開けパンを「パクっ!」
今まで暴れていた紐は揺れる事なくピーンと張り、
プチッ!とパンだけ取れた。
「よし!」
亮輔は小さくガッツポーズをし、パンを口に押し込んだ。
次に待っているのは"ハードル"。
高さがマックスまで上がっている"ハードル"。
しかし亮輔にとって"ハードル"くらい容易い。
コツも熟知していてむしろ得意な方だ。
思いっきり助走をつけて、
「『跳ねる』というよりも走った勢いのまま足を『跨いで』走り切るイメージで。」
掌をピーンと真っ直ぐ伸ばし、つま先でしっかり地面を蹴りながら思いっきり助走をつけ、
「ほっ!!」
右の足を真っ直ぐ上げた。
右の足がハードルを越え、後は左足を抜く、、、。
その時、フワッとスカートがめくり上がる。
「やべっ!」
つい女子のようにスカートを浮かないように両手で
前後を抑えてしまう。
宙を舞う亮輔。
スカートを抑える事に気を取られ、抜く左足のつま先が
軽くハードルに触れる。
その景色がコマ送りのようにスローに映る。
「あっ、、、!」
「ガターン!」
倒れたハードル。
「くそっ!」
亮輔はすぐさまハードルを起こし、"パン食い競争"の方へ逆走する。

「ガハハハハ!」
パンを咥え満足げに走り出した祐介。
見ると亮輔がハードルを起こし戻ってきている。
「チャーーンス!」
祐介はパンを大口で一口、二口と堪能しながらハードルへ向かい加速する。

亮輔も先程と同じ程の一定の距離を確保し、前方へ抜ける祐介を追い加速を始める。

まだ右手に食べかけのパンを持ち、"ハードル"まで2,3メートルと近づいた祐介。
その右手のパンを頭の上の高さ程までL字で上げ、
なんと重心を下げる。

3〜4メートルの差で祐介を追う亮輔。
ハードルを目前にして目の前の祐介の頭が下がっていく。

「おりゃ〜〜!!」
重心を下げた祐介はそのまま左の足を真っ直ぐに伸ばし、
右の足はたたむように曲げ、左手は真っ直ぐ進行方向へ伸ばし、戦隊もののヒーローが如くキレイな"スライディング"。

目の前の祐介の身体が"ハードル"の隙間をスッポリ抜けていく。
「あんなん、ありかよ、、、。」
亮輔も助走の勢いをつける。

ガタン!と少し揺れるも倒す事なく"ハードル"を越えた祐介。
「ガーッ!」
スカートは完全にめくれ、丸見えのトランクス。
ピンクのフリルの服は一気に砂で汚れる。
しかし右手のパンは守り切った!
それを咥えるとそのスライディングの勢いのまま
右手で状態を起こし、前方へ滑るように立ち上がる。
次に待ち構えているのは"跳び箱"。

亮輔もトランクスをチラ見せさせながら、"ハードル"を超え、恥ずかしさよりも祐介に追いつこうと追いすがる。
前方には高くないが5段の"跳び箱"が待ち受ける。
「次は"跳び箱"か、、、」
「なんだか悪意を感じずにはいられないが、、、。」
"女装"からの"パン食い競争"→"ハードル"→"跳び箱"
のチョイスに苦笑いを浮かべ、上空の女神を疑うような目で見つめる。
「ちょっとした遊び心です。」
女神は笑顔で首を傾げ、「何か?」とでも言うように悪ぶれもなく答える。

差を開けたまま祐介は"跳び箱"に向け大股で腕を大きく振り加速する。
「うおおおお!」
みるみる"跳び箱"が近づく。
そのままのスピードで踏み切り台の手前、右足で大きく踏み切り、両足で踏み切り台を遣い、大きくジャンプ!

祐介を追う亮輔も跳び箱まで5メートルほどの距離まで迫っている。
体育も"5"の亮輔にとって"跳び箱"は朝飯前。
「跳び箱のコツは踏み切り台から45度でジャンプ。跳び箱の中央に両手を置き、手首で身体を前方へ押し出す。」
亮輔も"跳び箱"へ向け、ステップを踏むように加速を始める。

祐介が踏み切り台を両足で大きく踏み切る。
しかしスピードが在りすぎた。
ジャンプの角度は30度ほどと浅く、着いた手は縦に長い
"跳び箱"の3分の1程しか届いていない。かなり手前。
衝突しそうな勢いに突っかかるように体勢を崩す。

そんな明らかに跳べる体勢ではない、斜め前方で"跳び箱"
を飛ぶ祐介の姿を亮輔は見逃さない。
「もらった!」

体勢を崩した祐介は、両手をついたまま勢いで顔面から"跳び箱"に突っ込む。
「うおっ!?」
しかし、驚くよりも先に頭を守るように首をたたみ、
頭の頭頂を"跳び箱"に着けた。
その祐介は両足を真っ直ぐ揃えたまま、
跳んだ勢いで足を上空へ持ち上げ、
"跳び箱"の上で倒立。
「うおおおお!」
そのま両手のパワーで身体を前へ跳ね上げた!

「ヘッドスプリングだと!?」
驚く亮輔。目の前でバナナのようにスカートのめくれた祐介の身体が宙を舞う。
ーーヘッドスプリングとは、マット競技で助走をつけて
  頭と手を着けて前宙する技の事であるーー

祐介の両足が綺麗な円を描く。
宙で1回転した身体は元の状態に戻りながら、
空中で身体が描いている弧が「"跳び箱"に当たる!」
と直感し、
背を大きく仰け反る。
その甲斐もあり、背をギリギリ通過する"跳び箱"。
天を見ていた景色が白いマットに一気に変わる。
「うおっと!」
両足で着地。
仰け反った事と回転の勢いで体勢を崩し、両膝をついて
倒れ込む。
しかし、顔はもう先のコースしか見ていない。
手と足を目一杯使い、這い上がるようにすぐ立ち上がり
向かうは最後の"網"。
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