トライアングル 上
【第4章】 白い悪魔

(第3戦) 亮輔ターン 連想ワード「競争」
     「競争」→「レーン」=「ボーリング」
          「ボーリング」
    1ゲーム10フレームのスコアの合計を
    競う。

茶色の木目の綺麗な、ワックスで磨かれた床。
10レーン以上ある普段は賑やかに人がいるであろう店内は
ゲーム機などの音もせず3人だけで静まりかえっている。

「今回も貸し切りとは、、、。そろそろ不法侵入で捕まったりしないよな〜。」
亮輔の声が静まりかえったボーリング場に響く。

「その心配はございません。もし、危険を察知しましたらすぐにでも別の場所をご用意いたしますし、万が一競技中に警備員や警察官など、お邪魔が入りましたら、どこかに飛ばしてしまう事も出来ます。」
得意げに笑みを浮かべて言う女神。

「無茶苦茶だな〜。」
女神の常人離れの能力と人間味のあるコメントに少し愛着すら感じながら、しかし常識人の亮輔はその笑みの返しが苦笑いになってしまう。
「ちなみにその格好は?」

女神恒例になってきたプチコスプレ。
今回は青いドレスの上に白いガウンのようなものと
ストール、白いマントと白い水泳キャップのような帽子を被っている。
その胸元には十字架のネックレス。
「これはボーリングは宗教観の悪魔祓いの儀式として中世ドイツの"マルティン・ルター"が宗教革命と同時に伝えた事が始まりとされていると言う事で、、、。」
「カトリックの牧師風です。」
「どう?」と見せつけるようにヒラッと空中で1周回る。

青いドレスに全体的に白の色調が、マントとドレスという違和感を清潔感でまとめ、確かに合っている。しかし、
「、、、やっぱり。似合う、似合わない以前にボーリングの起源は古代エジプト。壁画に描かれていたり、遺跡からピンとボールのようなものが発見されたり。そこからヨーロッパへ伝わったのが流れ。たがらコスプレするなら古代エジプトの格好をしないと〜。」
神でも間違えるんだなと、思いながら突っ込む亮輔。
と、いうよりも、、、

「〜〜〜っ、ボーリングのルーツとしては間違ってないのですから、いいではありませんか!」
ドヤ顔を見せつけただけに恥ずかしくなり、プイっとそっぽを向く女神。

前の戦いから「何か?」と悪ぶれもなく首を傾げてみたり、「警察など飛ばしてやる」と少し小ギャグを挟んできたり、ドヤ顔とか恥ずかしい顔とか
女神のクールな"神"としての表情から除くちょっとした"人間味"に親近感を覚えてくる。
「はははは、、、。」
思わず亮輔から出た笑い声。

「な、何ですか!!?」
顔を赤らながらも表情はキリっとクールに整え、食って掛かろうとする女神。

「亮輔〜〜〜!!」
その2人の間に割って入るように祐介が声を挟む。
その服装は上下黒の学生服で、上のボタンは全て開けて、
中には男らしい漢字の入ったTシャツ。
靴はボーリング用のシューズを履いている。

先程の戦いで異形へと変貌を遂げた祐介が、
なんとかいつも通りの、見られる姿に戻り「ホッ」と
安堵の溜息をもらす亮輔。

しかし、祐介の表情から2戦目のような笑顔は消えている。
それもそのはず。
亮輔はマイボール、マイシューズを持っているほど
ボーリングが得意。
幼い頃から知っている者同士、どう考えても祐介の敗北は目に見えていた。

「お前はいつもそうじゃ!!」


2人が小学4年生に上がり、少しずつ体格も子供から大人に変わり始め、
体育の授業も"遊戯"から"スポーツ"への変化し、
成績もみんなが"とてもよい"だったのが少しずつ差が開き
始める。
2人はというと、クラブの野球を始め、お互い意識して
牽制し合う事でクラスの中では注目を浴びるほどに
スポーツは得意だった。
しかし、その向き合う姿勢の温度差で時折ぶつかる事があった。
ある日のサッカーの授業。
祐介と亮輔は同じチームになる。
祐介が攻めの要の"フォワード"。
亮輔がパスやドリブルを駆使してチームをまとめる"ミッドフィルダー"。
試合は前半、亮輔のパスと祐介のドリブル、シュートが噛み合い 1対0。
しかし、後半に入り、相手の攻撃に守りが耐えきれず2点取られてしまう。
その時点で残り時間は5分ほど。
中央ラインから球を蹴り出し、すぐさま相手の陣地へダッシュで切り込む祐介。
仲間から亮輔へボールが渡る。
祐介がディフェンスを振り切り、空いたスペースに走り込む!
「亮輔!!」
祐介は右手を上げ、「こっちだ!」と大きな声を上げて
アピールした。
それに気付いたように亮輔と目が合い、亮輔な足元のボールを蹴り上げた。
正確無比の亮輔のボールが祐介の足元に!!
、、、、来るはずだった。
しかし亮輔がパスを出したのは逆サイドを走っていたミッドフィルダー。
その逆サイドからはディフェンスに阻まれ、
結局そのままその試合は最後まで祐介にボールが回って来ることは無かった。

体育の授業終了後の休み時間、、、。
「どうしてあの時パス出さなんだ!亮輔やったらわしの所までパス出せたじゃろう〜が!!」
体操服から私服のジャージに着替える亮輔に祐介が食ってかかる。
その大声にザワザワと着替えをしていた教室中が静まり、
一斉に2人に視線が集まる。
半分ジャージ姿の亮輔が「げ!」という感じに周りを横目でチラチラ気にし、小声で返す。
「バカ!声がでけ〜よ!!」
祐介も首を大振りに振り、目が合ったクラスメイトに
頭に手を置きながら「すまん!」と軽く会釈する。
それを見てクラスがまたザワザワ騒ぎだす。
亮輔がホッとようやく肩をおろし、祐介へ返答する。
「バカ!あんなん完全に負け試合じゃないか!お前にパス出して点を決めれた所で良くて同点だろ?残り5分だぜ?
体育の授業なんてそこまでムキにならなくても華々しく勝つか、潔く負けるか。それくらいでいいのよ。」
試合の勝ち負けよりもその間の経過を楽しく祐介に対し、
亮輔は勝つ事に喜びを感じ、計算してもどう考えても
勝てないような事には無駄な労力を使わない。
傍から見たらスポーツの出来るだけに目だたない亮輔の
そういう考えに祐介は憤りを感じていた。


「さっきまであんな熱い試合をしとったのに!」
「亮輔の根本は結局これじゃ!」

"10ポンド"と書かれた棚のボールの穴に指を入れ、合うボールを選びながら、祐介の不満そうな表情に
思い当たる節を当然感じながら亮輔は言う。
「まぁ、祐介。『次勝てばいい』だろ!」

この挑発に祐介は、「こんな勝負をして何が楽しいんじゃ
!」と、怒りで顔を真っ赤にしながら"15ポンド"のボールをガッ!と3本の指をボールの穴に突っ込み、
両者揃ってレーンに立った。

2つのレーンの上部の2台のテレビ画面には、未だ点数が未登録のスコアボードにそれぞれ"りょうすけ"と
"ゆうすけ"と名前が刻まれている。
「せっかくこれだけレーンもある事ですし今回はそれぞれに1レーンずつレーンを設けさせて頂きました。さて、
どちらからの先頭でスタートしますか?」
女神が2人に問いかける。 

「俺はどっちでも構わないよ。」
亮輔がボールをキープする台に置き、イメージだけ膨らませながら、ボールを持つ素振りをして、ピンが並ぶレーンの先を見つめつつ素振りを始める。
顔の前でボールを構え、その重たいボールを背中の後ろに腕が真っ直ぐ伸びるまで伸ばし、そこから振り子の原理でボールを前へ押し出す。
さすがのマイボール、マイシューズを持つだけの美しい
理想的なフォーム。
素振りだけで玄人感が伝わる。

「わしもどっちでもかまわん。」
"15ポンド"の重い球をガン!と音を立てながらボールを
キープする台に置く祐介。指を入れたまま膝を曲げ、
腰を屈めた状態でレーンの向こうのピンを睨みつける。

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