トライアングル 上
【第2章】 駆走(くそう)


ブンブンブン!
晴れ渡る青空の元、舗装されたアスファルトから熱気で湯気が立ち上がる。
そんな中、蜃気楼のようにうっすらと浮かび上がる2台の車。
今にも走り出しそうな赤と青にカラフルに彩られた車体から少しの高めのエンジン音が響き渡っている。
「なんじゃこりゃ!どうなっとるんじゃ〜!?」
インコース側に構える青の車体の上、車体と同じ青いヘルメットを被った祐介が急に変わった状況が飲み込めず
アタフタと車体から突き出た首を左右に振り、思わず大きな声を上げる。
その大きな声にアウトコースの赤い車体から突き出た赤いヘルメットの亮輔が騒がしい横の青の車体を見つめ、
起こったことに身震いを起こす。
「マジか。俺が連想した事、ここまで忠実に再現されるのか、、、。」


(第1戦目)亮輔ターン 亮輔の連想ワード「カート」
      カート勝負!
    赤いカート→亮輔  青いカート→祐介
      1周2400mのコースをカートで争う。
      先にゴールした者の勝ちとする。


「1つ目の戦いの舞台は整いました。」
2台の上、赤いランプの点灯した信号機の上に女神の姿。
エンジン音の中でも脳裏に鮮明に伝わる声に2人はハンドルを握ったまま信号の上の女神に目をやる。
「すげ〜な!女神さん!俺の連想したのは確かに"レース"だ!このカート、コース、どうやって準備したんだ?」
赤いヘルメットの中から亮輔がニカッと歯を見せる。
「亮輔!おめ〜か!こんなせめ〜とこにわしを押し込んだのは!」
ハンドルから手を離し、自分のカートから身を乗り出し赤いカートまでバタバタと手を伸ばし亮輔に掴みかかろうとする祐介。
しかし微妙な距離にカートまで手が届かない。
そんな祐介を横に女神と亮輔が会話を続ける。
「このコース、カートと共に現存するサーキット場、カートにそなた達を移動させただけの事。」
「当然のようにすげえ事やるな〜。」
亮輔は女神の能力に関心をし、
「さあ、始めようぜ!」
口はニカッと笑みのまま視線をキリっとコースへ向ける。
「何を言っとるんじゃ!わしはまだ何も納得しとらんぞ!」
亮輔をカートから引きずり下ろそうと懸命に手を伸ばしながら祐介は今にも湯気があがりそうな真っ赤な顔で女神へ訴え掛ける。
その顔に見向きもせず亮輔は祐介に吐き捨てる。
「バカじゃね〜かお前。ルール聞いてたかよ!お前はお前で次考えてろよ!」
未だルールが掴めていない祐介だが、とにかくその亮輔の態度が気に入らない。亮輔を思いっきり睨みつける。
「おう!なんや!次ってわしが負けるような言い草しよって!女神さんよ!この機械はどうやって動かしたらええんじゃ!?」
2人の言い合いを静かに見つめていた女神が手を差し伸べるかの如く、優しく手を前に突き出し説明をする。
「説明しましょう。まず足元にありますペダルが2つ。左が"ブレーキ"、右が"アクセル"。アクセルで発進して、ブレーキで減速。これが基本になると思います。後は手元の"ハンドル"を左右に回して車体を動かしてください。」
祐介が足元のペダルを交互に踏み、目の前のハンドルを左右に揺らし確認する。
亮輔は、ふぅっ!と、ため息をつきながらバカバカしいという感じで肩をすくめ両手の掌を上へ上げる。
女神が続ける。
「あとは信号が赤から青に変わりましたら左の方にあります"ギア"を入れて発進して下さい。」
祐介が左手のギアに手を置き疑問に思う。
「このギアのところにある数字ってなんじゃ?」
ギアには1から4まで数字が刻まれている。
「それはエンジンの回転数を変えるものです。1→2→3と回転を上げていくことでスピードも上がっていきます。逆に4→3→2と、下げていけばスピードも落ちます。」
『回転数?』と、疑問を抱える祐介に、フンっと鼻息をだし亮輔がバカバカしい感じで横目で言う。
「要するに1より4のが早いって事よ!」 
亮輔にチッと舌打ちしながら『わかっとるわ』と睨み返す祐介。
そんな2人に女神が言う。
「そうですね。さあどうでしょう。大体の流れは理解して頂けたでしょうか?」
その言葉に祐介が観念した様子でハンドルを握る。
「やってやろ〜やないか!」
亮輔もハンドルを握りながら言う。
「準備はOKだぜ!」
「それでは両者準備が整ったところではじめさせて頂きます。」
女神がどこからともなく出した黒と白のチェック柄の旗を大きく振り上げる。
それと同時、縦に3つ並んだ信号機の赤のランプが音と共にひとつ灯る。
「ピッ!」
歯を食いしばりながらコースを見つめる祐介。
信号機の赤信号が1つ下がる。
「ピッ!」
にんまりと笑顔でコースを見つめる亮輔。
2つ目の信号が消え、音とともに1番下の青信号が灯った瞬間。
「ピーン!」
女神が旗を大きく振り下ろした。
「スタート!!」
ブンブーン!
軽快なエンジン音と共に最初に飛び出したのは亮輔。
祐介の乗る青い車はアクセルを限界に踏み込むも思うように加速してくれない。
「なんでじゃ〜〜!」
そんな祐介の声に亮輔は鼻で笑い素早くギアを1速から2速へ切り替える。
「ホントバカな奴。」
車のギアというのは自転車の切り替えのようなもの。
ギアを上げる毎に回転数を上げることが出来るのだが、
ギアが大きければ大きいほどその負荷が増す。
「亮輔〜〜!!騙しおったな〜〜!」
尚もアクセルを限界に何度も踏み、顔を真っ赤にしながらどんどん引き離される赤の車体を睨みつける祐介の左手、
ギアは"4"に入れられている。
つまりは1速より4速の方がスピードは出る!は正しいのだが1速より4速の方がエンジンに掛かる負担が大きい。
重い切り替えの自転車が中々漕げないのと同じ、
その分加速が遅いのだ。
「やっぱりお前なら引っ掛かってくれると思ったぜ!」
ギアを3速に入れ、さらに加速をする亮輔の目の前に長い直線を越え"右"を表す標識が見えてくる。亮輔は車体をコースの左端ギリギリまで寄せ、1つギアを下げハンドルを大きく右へ切る。
そこへようやくスピードに乗り出した祐介の車がコースの右、インコースよりでやってくる。
「ようやく追いついてやったわ〜!!」
右へハンドルを切った亮輔の車はスピードを緩めながらもコースに沿って曲がっていく。
そこに続いてようやくハンドルを切り出した祐介。
「まがれや〜〜!!」
と、大声をあげながらそのままのスピードでコースの外に撒かれた砂地の方へ真っ直ぐ進んでいく。
砂煙を巻き上げコースを逸れた祐介。その姿をサイドミラーで捉えた亮輔がコースを前進し次に見えてきた"左"の標識をアウト、インで順調にまがりながら高笑いする。
「、、、、ハハハハ!」
それは勝利を確信した余裕の笑い。
「負けるはずがない!」
そしてそれは亮輔にとって祐介との戦いの終止符を意味していた。

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