トライアングル 上
女神がこの"レース"をダイジェストで振り返る。
「まずは両者スタートをします。ここで先におどり出たのが亮輔選手。」
亮輔は思い出す。「スタート!」女神が旗を振り下ろしたと同時にロケットスタートを謀る亮輔。
後ろでは「騙しおったな〜〜!」と叫ぶ祐介の姿。
「最初のコーナー。亮輔選手はスムーズに曲がるも祐介選手はコースアウト。」 
ハンドルを思い切り切るも減速が足らず「まがれや〜〜」と言いながら砂地にまっしぐら。
「亮輔選手は順調に走りを進め、砂地のS字に差し掛かる少し前、祐介選手がようやくコースに復帰します。」





ボードの地図上を女神の赤と青のカートが進んでいく。
「その後、まだスピードに乗ってない祐介選手は90度の左カーブ、その後の左カーブをゆっくり曲がり、両者中間地点に差し掛かる頃にはその差38秒5。」




地図の赤いカートは直線、青いカートは砂地のS字カーブの手前。半周までとは行かなくても差は歴然。
「そう!ここまででこれだけ差があって追い付くはずがないんだ!」
亮輔は声を荒げる。
女神はそんな亮輔を見つめたまま笑顔を見せると赤と青のカートをボード上で器用に動かし説明する。
「では説明しましょう。亮輔選手が直進を走っている頃、祐介選手は砂地のS字に差し掛かります。」
赤のカートが直進の中間以上進んだあたりで青のカートが砂地のS字に差し掛かる。





祐介のカートから少し下り気味のコースの先にクネクネと曲がる道が見える。
「なんじゃ!クネクネと!せっかくスピードに乗ってきとるのに、、面倒じゃ」

「ここをスピードに乗ってきた祐介選手は躊躇なく直進!」
青いカートがS字の道をが曲がってないかのようにそのまま砂地を含めてS字の道の先までの突っ切る。
「え?」
亮輔が思わず唖然とする。
「次の左カーブは亮輔選手の走りを見て学んだのか、コース右に寄るも減速せずに激突しながら左へ曲がる。この時点で亮輔選手は直進を抜け、次のS字に入っています。」
しかし、赤いカートと青いカートの差はまだまだある。
「ここからが圧巻です。」





「おりゃ〜!!イケイケ〜!!」
祐介はめいっぱい力を込めてアクセルを踏む。壁に激突して減速した車もドンドンスピードを上げる。

「直進を進む祐介選手。」

そんなマックススピードにスピードが上がった祐介の目の前に壁のようなガードレールが迫りくる。
「こりゃ、どうするかのぅ。」
こんなスピードでぶつかればひとたまりもない。額に少し汗を流しながら車体をコースの右に寄せる。
両手が緊張でハンドルを強く握る。
「曲がれや〜〜〜!!!」
カーブに差し掛かった瞬間、折れそうな程思い切りハンドルを左に切った!

「直進の後の左カーブをトップスピードのままガードレールを利用して左折。」





青いカートは火花を上げながらまるでレールを走るかのようにガードレールを使って減速することなくトップスピードで左へ曲がって行く。

「その後のS字カーブも車体を壁に擦らせながらもほぼトップスピードで駆け抜けます。」
そう言っている女神のボード上の赤と青のカートは先程までの差がほとんどない。





「後は下りの直進。この下りで亮輔選手よりもスピードを上げた祐介選手のカートはグングン近付き、そのまま大回りをした亮輔選手のカートに真っ直ぐ衝突!」





「そんなバカな!」
亮輔は青いカートに駆け寄る。
そのカートは赤いカートよりもタイヤの軸は前後ともに
ひん曲がり、前方は亮輔のカートとの衝突でひしゃげ、
左右のタイヤやドアなどは塗装が分からなくなるほど
剥げている。
そして亮輔は驚愕する。
「ありえない!」
ギアは4速に入れられていた。
「そう、祐介選手は一度もギアを変えず、アクセルを踏み続け、曲がれない道は衝突しながら、、結果!絶望的な差を埋め追いついたのです。」
完全なる敗北。
「、、、、!」
亮輔は言葉を失ってしまう。
そこへ祐介がヘルメットを外し、両腕を伸ばしながら悠々と亮輔の背後に立つ。
「まあまあ亮輔。『次勝てばいい』じゃろ?」
祐介はニッと歯を見せ、無邪気で邪気な笑顔で発した。
「次はわしの番じゃ!」

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