10憶で始まった結婚は○○だった
恐ろしい人…
 月日が流れ2週間後。

 あれからティケルは何度もファリサを公務に誘ったが、全て断られていた。
 寝る時間もティケルが早く部屋に戻って来ると、遅くまで本を読むと言って先に寝るように言われて夜中に隣にいないファリサを見に行くとクローゼットの中で寝ている事が多くその度にティケルがベッドに運んでいた。

 無意識でティケルにしがみついてくるファリサだが、朝起きると何もなかったように無表情になり口数も減ってきた。
 朝食は食べない事が多く、お昼も夜もあまり食べようとしない。

 時々中庭にでて花壇を見ているファリサだが、それ以外は全く外へ出ようとしない。

 
 そんなファリサが珍しく外出したいと言って来た。

 ブッドルは行き先を聞いたが答えてくれなかった。

 行き先を教えてくれないと外出は許可できないとブッドルが言うと、それなら結構ですと言ったファリサ。


 それからしばらくして、ぺリシアからファリサに連絡が入りどうしても用があるかぁ来てほしいと言ってきた。

 連絡を受けたのはブッドルで、ぺリシアからの申し出であればとやっと外出の許可を出してくれた。


 ぺリシアがお城に迎えに来てくれて、一緒に外出する事になったファリサ。


 執務室の窓から見ていたティンケルは、ちょっと複雑そうな顔をしていた。

「俺とは一緒に出掛けてくれないくせに、ぺリシアさんとは外出するんだな。俺もファリサとデートしたいのになぁ…」

 遠ざかる車を見ながら、ぼやいているティンケル。


「公務って言うからいけないんだろうな。素直にデートって言えば、行ってくれるのかな? 」

 デート…。 
 確かに公務とデートでは響きが違う。

 結婚式まで会わないかったティケルとファリサ。
 デートなんて一度もしたことがなかった。
 結婚してから恋人同士のような事…できるかな?



 ぺリシアとファリサが向かったのは国立病院。

 
 お天気が良く気持ちいい風が吹いている屋上に、あのセレンヌがいる。

 ギ~ッと屋上のドアが開く音がしてセレンヌが振り向くと、ぺリシアとファリサがやって来た。


「お母さん」

 いつも無表情のファリサが満面の笑みを浮かべてセレンヌに向かって歩み寄って行った。


 そう。

 ファリサの呼んでいた「お母さん」は、セレンヌだったのだ。
 

「ファリサ、元気そうね」
「ええ、大丈夫よ」

「お城での生活はなれた? 」
「うん。まだ判らない場所はあるけどね」

「そっか。結婚式も無事に終わって、本当に良かった。行けなくて、ごめんなさいね」
「大丈夫よ、お母さんが来たら大変じゃない。これからもこうして会いに来るからね」

 そっと微笑んだセレンヌ。

「ねぇ、お母さん。この前話していた、ぺリシア叔父様の事。本気で考えてくれた? 」
 
 そう言われると、セレンヌはスッと視線を落とし辛そうな目を浮かべた。


「お母さん、もういいでしょう? お母さんは、お母さんで幸せになればいいんだから。叔父様だって、望んでいる事なのよ」
「…その事は、もう少し考えさせてほしいの」

「考えさせてって言われて、もう5年以上も叔父様待っているって聞いているわ」

 少し困った目をしてセレンヌは俯いてしまった。


「ファリサ。お母さんも、気持ちの整理が必要なんだよ。焦らせてはいけないよ」

 ぺリシアがそう言うと、ファリサはちょっと呆れたように溜息をついた。

「私、お母さんが幸せにならないと落ち着かないわ」

 そう言ったファリサを、ちょっと痛い笑みを浮かべて見つめたセレンヌ。

「何を言っているの。先ずは、自分が幸せになりなさい」

 もう…。
 幸せになるって…私は…。

 ちょっと言葉を飲んでしまい、ファリサは何も言わないままセレンヌを見ていた。


「さてと、そろそろ診察の時間だわ」
「うん、また来るわね」

「いいけど、ちゃんと行き先は伝えてくるのよ。きっと、執事のブッドルさんがとっても心配しているから」
「はーい」

 ちょっと気にない返事をしたファリサ。


 屋上を去りながら、ファリサはセレンヌと他愛ない話しをしながら歩いて行った。
 
 そんなセレンヌとファリサを見守りながら着いて行ったぺリシア。




 
 3人がいなくなると。


 反対側から足音が聞こえてきた。

 近づいてくる足音…。
 その足音はサーチェラスだった。
< 21 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop