ちよ先輩のてのひらの上。

知らないこと



——パラリ。

プリントをめくる音が、静かな教室に響く。そのあとに、ボールペンが紙の上を滑る音。

そよそよとカーテンを揺らす風が心地よくて、……私はそっと目を閉じた。


「……ごめんね、ひなちゃん。退屈でしょ」


ちよ先輩の声に、私はぱちりと瞼を開ける。


「……いえっ。むしろ普段は、先輩の時間を、私が奪っちゃっているようなものなので……」

「そんなことないよ。……俺はひなちゃんと一緒にいられるの、嬉しいし」


向かいに座る先輩が、目線だけをプリントからこちらに移す。

笑いかけられて、私はさりげなく目を逸らした。

窓から差し込む西に傾いた陽の光が、眩しい。


私は両手で口を覆うようにして、


「……それ、そのままそっくり、……お返しします」


モゴモゴと言った。

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