カタブツ竜王の過保護な求婚
気の毒なお姫様


「やっぱり、奥様はもう長くないらしいわ」

「ええ? それじゃあ、レイナ様はどうなるの?」

「本当の父親が引き取られるんじゃない? だって、旦那様はご自分の子ではないってはっきり公言なさっているもの」

「だけど本当の父親って……あの方でしょう? 本当に引き取ってくださるのかしら?」

「そうよねえ……。ホント、奥様も酷なことをなさるわ。浮気相手のお子をお産みになったばかりか、その後は乳母に任せて放ったらかし」

「だからあんなふうに育ったのよ」

「仕方ないんじゃない? 育ての父親には忌み嫌われ、生みの母親には無視されていたら、お屋敷の中にだっていたくなくなるわ」

「それもそうね。私だったら耐えられない!」

「本当にお気の毒なレイナ様」

「これからのことを思えば、さらにお気の毒なレイナ様」


 同情の言葉を口にしながらも、洗濯メイドたちはくすくす笑いながらその場を去っていった。
 レイナは生垣の中に膝を抱えて座り、その話を黙って聞いていた。

 もう〝お気の毒なレイナ様〟は何度も耳にしている。
 だから自分は気の毒なのだと小さい頃から知っていた。
 ただ何が〝気の毒〟なのかはよくわからない。

 お父様やお母様にお会いすることはできなくても、乳母のノーラは優しいし、自由に外で遊ぶことだってできる。
 部屋の中でじっと座って刺繍などしなくてもよいのだ。

 とはいえ、いつまでもここにいてはノーラに心配をかけてしまう。
 レイナは生垣の中を隠れるように這いつくばって進んだ。
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