カタブツ竜王の過保護な求婚


 フロメシアから無事に帰国した翌日。
浮かれた気分で中庭に訪れたレイナは夢見心地のまま草花を見ていた。

 そこにひらひらとまた蝶が舞い降りてくる。
 だがレイナは以前のように捕まえることなく、ただ蝶を目で追うだけだった。


「今日は捕まえないのか? いや、先日もせっかく捕まえたのにすぐに逃がしてしまったんだな」

「カイン様⁉」


 いきなり後ろから声をかけられ、レイナは驚いて振り向いた。
 付き従っていたアンヌや護衛たちは一礼すると、二人の会話が聞こえない程度の距離まで下がる。
 カインは頬を染めたレイナのそばに歩み寄り、再び問いかけた。


「綺麗な蝶だったのにな」

「あの、えっと……蝶はとても綺麗ですが、やはり狭い籠の中に閉じ込めるのは可哀そうなので……」


 先日の蝶のことなのか、今の蝶のことなのかよくわからない。
 ただカミーラのことを思い出し、浮かれた気分が途端に沈んでしまった。


「なるほど」


 先日のことには触れず、カインは納得の言葉をつぶやくとさらにレイナへと近付いた。体温が感じられるほどに。


「それであなたは?」

「え?」

「フロメシアから帰ってきた今は、王太子妃という立場を求められている。それは狭い籠の中に閉じ込められているようなものだろう? しかも獣人たちが用意した籠だ。それでも気持ちは変わらないか?」

「は、はい。私は……皆さんが受け入れてくださるなら……」


 確かに、ユストリスに戻ってからは、王太子妃として振る舞わなければならない。
 その立場さえもほとんどの者たちに認められていないが、それでもこれから頑張ろうと思えた。

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