偽りの夫婦
崩壊
「陽愛?」
「え?」
誰━━━?
「陽愛じゃん!久しぶりだな~!」
突然、知らない男に声をかけられる。
向こうは陽愛の名前を知っている。
と言うことは、知り合いなのだろう。

「あの、ごめんなさい……」
「えーひでぇな。元彼のこと忘れたのかよ!」
「え?私…記憶がなくて、全然覚えてないんです」
「マジかよ!?
俺は、田原 丈治!高校三年間ずっと、恋人同士だったろ?」
「え…」
「うーん。あっ!そうだ!
これ、見て!」
「え?」
鞄から出したのは、手縫いのお守りだった。

「俺の宝物!」
【じょーくん、大好き!ひな】
と刺繍されていた。

陽愛の中で何かが、溶けていくような感覚だった。

「じょ…くん?」
「そう!思い出した?」
「なんとなく…」
「なぁ、久しぶりに食事でもどう?」
「え?」
「色々話したら、思い出すかもだろ?」
「あ…ごめんなさい……それは、主人に聞かないと…」
「そっか…。
じゃあ…今聞いてみてよ!」
「うん」

紫龍に電話をする。
『陽愛?どうした?』
「紫龍、今ね…高校の時の同級生とばったり会って、食事に誘われたの。
もしかしたら、記憶取り戻せるかもだし、行ってきていい?」
『は?いいって言うと思う?俺が』
「でも…」
『ちなみにだけど、相手は男?』
「え?う、うん…」
『益々、あり得ないよな…。
ダメだよ!今からそこに行く!待ってて!
いい?絶対…動くなよ………』

「ごめん、田原…くん?
やっぱ主人にダメって言われたから。無理かな?」
「えーそうか……。
残念だなぁ」
「ごめんね」
「じゃあ、連絡先聞いてもいい?また後日でもいいから、会えない?」
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