愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
心に空いた穴


──暁くん、そろそろ家で引き取ろうと思うんだよ
──香苗のことに責任を負わなくていいのよ

ずっと、その言葉が頭の中を反芻している。
香苗の両親が親切心で言ってくれたことはわかっている。香苗のように優しい人たちだから。

だけど俺はそれを素直に受け取ることができない。
子供がおもちゃを取り上げられたみたいに、俺も香苗を取られたみたいでわあわあと泣きたかった。

心はモヤモヤとして今すぐにでも叫びだしたいくらいなのに、不思議と涙は出なかった。ただ心にぽっかりと開いた穴をどうすることもできなくて、今まで以上に仕事に励んだ。仕事に没頭すると余計なことを考えなくて済むからだ。

朝出かけに結婚指輪をはめる。
なぜ俺は指輪をはめるのだろう?
指輪が唯一の香苗との繋がりだから?

いや違う。
これは自分の体裁を守るためだ。
指輪をすることで煩わしいものから身を守るだけのもの。
香苗との繋がりではない。
だって香苗の指輪は俺の手元にあるのだから。
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