最低狩り

八蔔サイド


ブルル……。

缶ビールの横で、スマホが震えた。

朧な視界で今来たメールを読む。

「よっ、しゃあああ!」

火照る体をくねらせ、ツマミと、ビールと一緒に騒いだ。

制服は似合うか、どんな仕事をするのか、時給はどのくらいなのか。

様々なことに想像を膨らませる。

そう、今来たメールは採用通知。

しかも、明日から働くことができるという。

あまりにも浮かれすぎて、酒が入ってたこともあり、

ゴン

机の角に足を思い切りぶつけ、

ドンガラガシャーン

派手に机をひっくり返してしまった。

酒臭さがあたりに充満する。

普段だったら、ブチ切れてるところだが、嬉しさでそんなの気にも留めず、ルンルン気分で掃除をしていた。

「ちょっと何事?すごい音したけど……って酒臭っ!」

パジャマ姿の真奈がしかめっ面で顔を出した。

どうやら寝ているところを起こしてしまったらしい。

「おおー、真奈!聞いてくれ!俺な、バイト受かったんだ!」

「はいはい、おめでとさん。言っとくけど、出勤停止食らっといて落ちるとかあり得なかったから」

欠伸をしながら部屋に戻ろうとしている真奈に、少しイラッとした。

「なんだよー、その言い方。ほら、真奈もこっち来て祝ってくれよ」

手招きする俺を、冷ややかな眼差しで睨みつけた真奈。

その姿が重なり、不覚にも涙が滲んだ。

「酔っ払いに付き合うなんて、まっぴらごめんだから。私、寝る」
 
艷やかな黒髪を揺らしながら部屋を去った。

「ちっ、連れねぇ奴」
 
呟きを零し、雑巾から手を離す。

そして、スマホに手を伸ばし、キーボードを叩いた。

『明日からよろしくお願いします。楽しみです!』

送信ボタンをタップすると、すぐに返信が来た。

『こちらこそ、短い間ですが、よろしくお願いします』

短い間?

ああ、出勤停止解除までの間、ということか。

でも俺、そんなこと言ったっけな。

だが、違和感より、眠気が勝った。

しばらく飲み直しをし、時計が深夜2時指す頃、そのままソファで寝落ちした。

ピコン

寝息の中、通知音が大きく響く。

それに気付く事なく寝ている者へ、届いたメッセージ。

『本当、楽しみですね』
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