37℃のグラビティ
躊躇いながらお店に入ると、ベテラン支配人感漂う男の人が、アタシに営業スマイルで訊く。


「お一人様ですか?」


「いえ、あの、待ち合わせなんですけど……」


言った途端、すぐに理解したらしく、テーブル席の奥にあるお座敷席に案内された。


その造りは、襖で仕切られた個室の様になっている。


部屋ごとに設置された下駄箱には、新海の履いていたスニーカーがあった。


「ご注文はお部屋から、タッチパネルでお願い致します」


「わかりました」の意味で、小さく頭を下げる。


そしてアタシは深く息を吸い込むと、その襖を開けた。


スマホをいじっていた新海の視線が、一瞬だけこちらに向く。


アタシは襖を閉めると、テーブルを挟んで、新海の前に座った。
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