身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
4.もう少し考えさせて
「友恵ちゃん」
「あっ、梓ちゃん。……久しぶり」

 翌日、仕事が終わった後に友恵ちゃんと待ち合わせをしていた。

 昨日、成さんから『きっともう電話も繋がると思うよ』と言われ、出社前に電話をかけた。すると、成さんの言う通り、電話は繋がった。

 それで、今夜会おうと約束を取りつけ、私の職場近くのカフェでこうして久々に友恵ちゃんと向き合っている。

「えっと……まず、ごめんね」

 おずおずと頭を下げる友恵ちゃんに、やっぱり怒りの感情は湧いてはこなかった。

「もういいよ。何回も謝ってくれたじゃない。それに、事情を聞いたら逃げたくなるのも仕方ないかなって思うよ。こういったらなんだけど、友恵ちゃんとこのおじさん、強引そうだもん」

 ため息交じりにフォローするも、友恵ちゃんは相変わらず肩を窄めたまま。

「……ありがとう」
「ただ……びっくりした。私より先に成さんに連絡とって、しかも会ってたから」

 これについては、怒り……というよりもショックと焦りを感じていた。

 長年の付き合いをして仲が良いと思っていたのに、彼氏がいるのも知らなかったし、私ではなく成さんになぜ、って気持ちが膨らんで……。
 しかも、成さんのことも気になっていたから、余計な感情まで入ってきて。

 まあ、あの時の私も冷静ではいられなかったから、過剰にそう思っちゃったのはあるけれど。

「家に戻る前に、まずまっすぐ鷹藤さんのところへ行かなきゃって思っていたから。梓ちゃんにはいろいろ報告する件がまとまってから……と思っちゃって」

 友恵ちゃんは小さく「ごめんね」と言った。

「成さんからは少ししか聞いてないけど……。私のために、成さんに直談判してくれたんだよね? 驚いた」

 私の身を案じて、成さんのもとへ直行したらしいと聞き、それは逆に私が悪いことをしたなって思っていた。

 私がもっとうまく伝えていたら……いや、だけど常識では考えられない私たちの特殊な関係を、簡単に説明するのってどちらにせよ難しかった気もする。

 その時、友恵ちゃんがようやく笑顔を見せた。
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