身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
3.好きだと言って
 早いもので一週間が経ち、今日は同居生活二週目に入った月曜日。

 同居生活して初めての土日は、土曜は成さんが仕事の都合で不在だったけれど、日曜日は一緒に外食をしにいった。

 それ以外は特に変わりなく、徐々に私もこの生活に順応してきた。

 成さんは今朝も一緒に朝食を食べ、予定通り私よりも早く家を出ていった。
 私が作ったお弁当を持って。

 なんとなく、家賃もなにもかも払わずに高級タワーマンションに住まわせてもらうのが気が引けるから、そういうところでカバーしようとは思ったけれど……。

 いきなり職場にお手製弁当を持っていった後の、社内の反応はどうなんだろう。
 婚約者候補の手作りだとか晒されたら、私逃げ場がなくなるんじゃ……。

 今になっていろいろと考え込み、片付け終えたキッチンで項垂れる。

 自分で自分の首を絞めてどうするの。家政婦雇ったとでも説明してくれてれば……。いっそ、家政婦になりきろうか。

 彼はいづみ銀行本店の経営戦略企画部という部署に所属しているらしい。
 それも、その部署を統括する立場だとか。

 お見合いのときの釣書もまともに見ていなかったから、年齢や学歴など、初めて知ることの連続だったりする。

 ちなみに彼は私とたったの三つしか年齢が違わなかった。つまり、二十九歳。
 初対面のしっかりして落ち着いた印象から、もう少し上かと思っていた。

 それと、留学経験に加え五年間も海外支店にいたみたいだから、かなり英語も堪能だと思われる。

 彼からは頭脳明晰で聡明さを時折感じられるぶん、今回の同居生活もプラトニックなものになりそう。

 というのも、初日に〝ルール〟なんてものを持ちかけられたのが理由のひとつ。
 その後、ベッドでは私に一切触れず喋らずで朝を迎えられたのがもうひとつだ。

 多少警戒心は持っていたけど、やっぱり悪い人ではなかったのがわかってほっとした。

 ……とはいえ、彼の考えていることはいまいちわからぬまま。

 結婚を前提に、って言われたけれど、そんなの会って間もない相手に言う? 普通ありえないよね。

 私はひと目惚れの類はどうもしっくりこない慎重派。

 よく考えて行きついた可能性は、たったひとつ。

 時雨グループホールディングスとより蜜月関係になりたいから……?
 そのためにこの期間で私をうまく絆そうとしてる――っていう理由なら納得いく。

 ふとキッチンに整然と並んだ電子レンジや炊飯器に目を向ける。

 あれらもすべて、目的遂行のため。

 上等だ。
 そうとわかったら、これ以上翻弄されたりはしない。
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