8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 ドルフはじっとフィオナを見つめた。

『ねぇ、ドルフ。お願いがあるの。私は死んでも構わない。だけど、オスニエル様を守ってあげてくれないかしら。私の死が、彼の負担にならないように。できれば、彼の人生がいいものになるように。あ、あと、ポリーのこともお願いしたいわ。それと露店のみんなも……』

 すでに自分の死は受け止めて、フィオナは後を託し始める。指を折りながら語りだすフィオナに、ドルフは首を振った。

『もういい。お前の願いは多すぎる。叶えるのに一番手っ取り早い方法は、お前を救うことだ』

『え? でも』

『手助けする気はなかった。今のお前は俺だけを見ているわけじゃないからな。やり直したら、俺だけを見るお前になるかもしれないと思っていた。だが、もう生き直さないというならば、話は別だ。かわいいペットの願いだ。聞いてやる』



 パチンと指を鳴らしたような音が鳴ったかと思うと、止まっていた時が動き出す。
 オスニエルはドルフをじっと見ている。

『お前の覚悟はわかった』

 ドルフはそう言うと、オスニエルに背中を向けた。

『乗れ』

「は?」

『ブライト王国など俺が走れば一瞬だ。とっとと解毒薬を作ってもらってくるぞ』
 こともなげに言われて、オスニエルは頭の中の怒りの神経がブチ切れるかと思った。

「は? だったら最初から言えよ!」

『お前の願いなど聞く義理は、俺には無いからだ。これはフィオナの願いだからな。俺は仕方なく聞いてやったんだ』

「意味が分からん!」

 言い合いながらも、オスニエルがドルフの背に乗るとするに、彼らは部屋を出て、すぐに姿が見えなくなってしまう。

 幽体のフィオナは呆気にとられたままそれを見つめていた。
 やがて、トラヴィスが目をさまし、オスニエルたちが消えていることに気づき、舌打ちをする。

「畜生。……フィオナ、お前の仇は取ってやるからな」

 フィオナが死んだものだと勘違いしたまま、彼は彼で出ていってしまう。

(……大丈夫かしら)

 不安になりながら、フィオナは冷たくなった自分の体を見降ろした。

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