8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
聖獣の微笑み
 ブライト王国王太子・エリオットは、穏やかで平和を愛する優しい少年だ。彼は知識欲が豊富で、穏やかな日差しの元、木陰で読書をすることを何より好んでいる。

 そんな至福の時間を満喫している彼のもとに、突然、大型の狼と隣国の王太子が現れた。

「や、やあ、エリオット殿」

 狼にしがみついて、オスニエルが頬を引くつかせつつほほ笑む。

「……オスニエル様?」

 内心は驚きと焦りでいっぱいだったが、エリオットはなんとか笑顔を作った。

「え? 本当にオスニエル様ですか? 連絡もなく、おひとりでお越しだったのですか?」

 オスニエルは、人を呼ぼうとするエリオットを慌てて留めた。護衛が来るかと思ったが、よく見ると周りの時間が止まっている。

「あれ、周りの奴ら、動いていないぞ? ドルフ」

『あたり前だ。こんな不審者が現れたら捕まるに決まっているだろう。今はエリオットと俺たち以外の時を止めている』

「ドルフ……? 姉さまのペットと同じ名ですね。オスニエル様、見たところこのオオカミは聖獣だと思うのですが、オスニエル様には聖獣の加護があったのですか?」

 エリオットはきょとんとしたまま、そう問いかける。あまりの純粋さに、オスニエルからも毒気が抜けてくる。

「いやあの。エリオット殿、あの……」

『相変わらず平和な頭の坊ちゃんだな』

 ドルフもあきれたようだ。

「エリオット殿。内密で頼みがあるのです。実はフィオナが……」

 オスニエルから聞かされた話は、エリオットにとって驚きの連続だった。
 フィオナが毒に倒れたこともそうだが、ドルフがフィオナを守っていたこともまた驚いた。

「狼の聖獣の加護があるのでしたら、姉さまがこの国を継ぐべきだったのでは」

「あー、それは悪いが却下だ。俺はフィオナを正妃に迎えたいと考えている。だからこの国はエリオット殿に継いでもらわねばならんのだ」

「正妃に……?」

 エリオットは意外だった。半年前の婚儀の時、姉とオスニエルはそこまで仲良さそうには見えなかったからだ。
 だが、今のオスニエルは違う。フィオナを救うために、必死にここまでやってきたのだ。
 何より、聖獣が彼にその姿を見せたということは、彼を信用したということだろう。
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