8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~

 『トンビに油揚げを攫われる』というのは、どこか異国の方言らしい。大事なものを横からかっさらわれ、呆然とするという意味だ。
 俺の今の心情は、それに近しい。

「オスニエル様、お茶でもいかがですか」
「うむ。いただこう」

 ここは後宮のフィオナの部屋だ。昼下がり、毎日毎日飽きもせず、オスニエルは「お茶の時間だ」と言ってフィオナの元へやってくる。結婚当初は寄り付きもしなかったくせに、全く、調子のいい男だ。

「キャン」

 腹が立つので、俺はフィオナの膝の上から動かない。邪魔してやる。どこまでも邪魔してやる。

「ドルフ、今日は散歩に行かないのか」

 オスニエルが遠回しに出て行けというので、俺はこの場の面子を確認する。
 オスニエル、フィオナ、ポリー。他の侍女はいない。これなら元の姿に戻っても問題ないだろう。
 俺は子犬の姿から聖獣の姿に戻る。この姿になると、フィオナの膝をつぶしてしまうほど重くなるので、仕方なく膝からは降りよう。

『行かない。毎回毎回、俺が気を使って出て行く必要もあるまい。ここは俺の部屋でもあるんだからな』

 はっきり言うと、オスニエルの頬が引くつく。

「そうか。少しは運動しないと太るんじゃないかと思ってなぁ」

 軽く喧嘩を売りに来ている。買ってやってもいいが、オスニエルに怪我をさせるとフィオナが泣くから面倒くさい。
 調子に乗るんじゃない、オスニエル。フィオナがお前を選んだからっていい気になるなよ。
 大体、俺は聖獣だぞ。王太子のお前より偉いんだ。なぜこっちが気をつかってやらねばならない。今日は断固として動く気はないぞ。
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