8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
侍女は弱小男爵令嬢
 オズボーン王国騎士団長の名は、ランドン・コールといった。年は三十五歳、実家は王都にある弱小男爵家で、ここまでのし上がってきたのは彼の実力でだ。
 自軍よりも多数の軍勢を相手に立ち向かったこともあるし、自分の身の丈より大きな熊を倒したこともある。
 だから、大抵のものには恐怖など感じないと思っていた。

 なのに彼は今、華奢な隣国の姫を相手に、得体の知れない恐怖を感じていた。

(いや、後ろめたいことがあるせいだ。きっとそうだ)

 ランドンは自分を納得させようと、もう一度フィオナ姫を見つめる。身長は一六〇センチ程度だろうか。銀色の髪が、腰のあたりまで伸びている。襲撃に遭ったせいで、着ていた白のドレスは一部が破れ、汚れてもいたが不思議と美しく見える。
 印象的なのは、なによりも目だ。冬山を思わせる灰色の瞳。それが時折、光を浴びたように銀色に輝く。

 今回の政略結婚は、ブライト王国を事実上の属国にするために縁組まれたものだ。
 約定に調印したのはオズボーン王国、ブライト王国双方の国王だ。
 だが、結婚の当事者である王太子オスニエルは、この結婚に乗り気ではなかった。彼はブライト王国を平民が建てた国だと認識しており、その薄汚れた血が自国と混じることを毛嫌いしている。

 だが、婚姻は父王が決めたもので撤回はできない。だとすれば、途中で相手がいなくなればいいのだと彼は思った。死亡でも失踪でもいい。ブライト王国側で引き渡し前に起こった事故ならば、それ自体をブライト王国側の護衛の失態とすることが可能だ。

 オスニエルはランドンに、山賊を装ってフィオナ姫の輿入れの一団へ襲撃し、彼女を失踪もしくは死亡させることを密かに命じた。

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