8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
傲慢王太子はツンデレ?
 オスニエル・オズボーンは二十六歳。百九十センチを超える身長に逞しさを感じさせる筋肉のついた体つき。宝石のような青の瞳が、黒のやや長めの前髪の隙間から怪しく光る。戦場での彼を知っている人は、皆一様に彼を軍神と呼んだ。

「殿下、こちらが他国の情勢です」

「ふむ……」

 側近のロジャー・タウンゼントが自ら精査した書類を渡すと、彼は背もたれに背中を預け、右手を顎に当てながら考え込むような仕草をした。

「今のところ、周辺国はおとなしいな。ブライト王国との縁談が効いているのか」

「あの国はやや神がかっていますからね。攻め入っても自然が邪魔をする。誰だって怖いでしょう。そのブライト王国が初めて自国の姫を他国へ嫁に出そうというのですから、注目も浴びますよ」

「好きで結婚するわけじゃない。俺はそんな胡散臭い女などごめんだ」

 オスニエルは不満だ。彼が信じるものは、自らの知識と武力である。オズボーン王国の人間は勤勉にして真面目だ。コツコツと自分たちの生活のために汗水を流し、経験と知識を積み上げていく。聖獣の加護をあてにして生きる国など、軽蔑の対象以外の何物でもない。
 オスニエルとしては、ブライト王国を武力にて属国とすることが正しいと信じていたのに。

「父上は臆病者だ。攻め入れれば勝てたものを、政略結婚で同盟をまとめようとするなど……。まさか本当に聖獣の祟りがあるなどと思っていないだろうな?」

「陛下のお考えはわかりませんが、この結婚は最善ではありませんか? 実際ブライト王国は侮れませんよ。あんな北部にありながら、温暖な地域でしか育たない作物を名産品として持ち、武力で攻めようにも嵐で阻まれる。陛下だけでなく、重臣の中には聖獣の存在を信じているものもいます。私だって。フィオナ姫が狼に助けられたと聞いて、信じる気になってきています」

「……それは」

 オスニエルは口ごもる。
< 39 / 158 >

この作品をシェア

pagetop