諦 念

▪▪亜季君の風邪?···②


「すみません。娘が無理に。」
と、言うと
「あっ、いえ。
あの子が、あんなに笑っているのを
ずっと····見てなくて。」
と、言った。
「私は、田中 真澄と言います。
娘は、真琴です。」
と、挨拶をすると
「松坂 東吾と言います。
息子は、亜季です。」
「亜季君、可愛い子ですね?」
と、言うと男性は、黙っていた。
「今日は、お二人なんですね?」
と、訊ねた。
「あっ、私はシングルなんですがね。」
と、伝えると
松坂さんは、びっくりした顔をして
「一人で娘さんを?」
「はい。娘がお腹にいるときから
一人です。」
と、言うと
「俺は、亜季が一歳半の時に妻を
亡くして。」
「······そうなんですか?
大変でしたね。
女性でも子供を一人で育てる事は
大変です。それを男の人が
育てるのは、なお大変だと思います。」
と、伝えると
男性は、立ち止まり下を向いた。

一緒に立ち止まると
彼の下には、水がポタポタと。
「大丈夫ですか?」
と、言い
彼の腕に手を添えてベンチに
座らせて
「真琴、少し休憩するから
近くにいてよ。」
と、声をかけると
「わかった。」
と、言って近くの動物を見ていた。

二人が見える所に座りハンカチを
松坂さんに渡す。
「····ありが····とう··ございま···す」
と、言う彼に。

黙って寄り添う。

私も本当に大変だった。
だけど、私には回りに良い人達が
沢山いてくれたから
この人は、違うのだろうと
一人で、全てをやり
疲れているのだろう
そして、亜季君もそんな父親の
為に我慢をしている?
優しい子だ。

真琴と亜季君がベンチに来て
亜季君は、父親を見て
びっくりしながら
父親の手に自分の手を乗せた。
松坂さんは、ビクッとしたが
「大丈夫だよ。」
と、私が亜季君に声をかけると
亜季君は、心配そうな顔をしていたから
「お父さんね。少しだけ疲れたみたい。
だけど、すぐに元気になるよ。
心配しないで。
亜季君は、お父さんが好きなんだね。」
と、言うと
「·····すき」と。
その言葉に松坂さんは、顔を上げて
亜季君を抱き締めた。
亜季君は、松坂さんの首に手を回して
抱きついた。

それからは、四人で動物園を廻り
また、お会いできたら
と、連絡先を交換した。
「子育てについて教えて欲しい。」
と、頼まれたのだが
私は、
「私が、教えられることはありませんよ。」
と、答えたのだが。
真琴が、
「また亜季君に会いたい。」
と、言うから······

松坂さんは、奥様を事故で亡くして
一人で亜季君を育ててると。

松坂さんも松坂さんの奥様の
実家は東京で。
仕事の転勤で北海道へと。

北海道に来なかったら妻を
亡くさなかったと嘆き
会社も辞めようと思ったが
今後の生活もあり
歯を食い縛り堪えた。
と、話してくれた。

それからは、
松坂さんと電話で話したり
土日の休みに
待ち合わせをすることも。

真琴と亜季君も仲良くなり
亜季君が、風邪をひいた時
仕事がある松坂さんから
亜季君を預かり看病をする。
寝言で····
「·····マ····マっ····」と、何度も
言う亜季君の
頭を撫でてあげる

亜季君は、目を開けては
私を見てホヤッと笑う

真琴も一緒に見てくれた。
まあ、真琴に移らないように
マスクや消毒、手袋をさせてから····

昔から男の子は、女の子より
体が弱い、と言われているが
どうなのだろう。

松坂さんは、毎日、朝昼晩
電話をくれて亜季君の様子を
確認する。

金曜日の夜に迎えにきて
亜季君は帰って行った。

真琴と二人、寂しくなって
二人でくっついて眠り
土日は、ゆっくり過ごした。

亜季君も私達と同じ気持ちで

松坂さんは、一人の寂しさを
味わったらしい。

四人が同じ思いを
感じた今回の出来事だった。
< 45 / 49 >

この作品をシェア

pagetop