諦 念

▪▪目が覚めると


目を覚ますと
優しい顔が見えた
「·····おと···う····さ··んっ····」
父の顔を見たら涙が溢れて
止まらなかった。

父は、私の頭をずっと撫でてくれて
明奈と十川さんがさっきまで
いてくれたが、会社もあるし
帰ってもらったよ
と、言った。

それから、
「栞那、戻ってくるかい?
お父さんとしては、戻ってきて欲しい。
そばにいて欲しい。
だが、仕事好きなお前の気持ちを
第一に考えたい。」
と、言われた。
「お父さん。心配かけてごめんなさい。
もう少しだけ、頑張ってみたい。」
と、言うと
「わかった。
だがな、きちんと食べて
きちんと寝るんだ。
それが出来ないなら
明日にでも連れて帰る。
二度とこっちには戻さない。」
と、言われて
「うふっ、はい。
食べるのも、寝るのも
頑張ります。」
と、言うと
父は、布団の上から抱き締めて
「すぐに駆けつけられなかった。
ごめんな。
今回ばかりは、自分の職業を嘆いたよ。
栞那、無理はするな。
そして、こんな俺だが
頼って欲しい。
俺は、お前、栞那の父親なんだから、」
と、言ってくれて
私は、何度も頷き
「うん。お父さんは、こんなじゃない。
私の大好きなお父さんだよ。
たった一人のお父さんだよ。」
と、言うと父の瞳に光る物が
見えた。
どれだけ心配かけたのかわかる。

父を待っている患者さんがいる。
帰るように伝えたが
もう少しいさせて欲しいと
言う父に。

なにも言えなくなると
父が、自分の携帯を見せた
そこには、父のクリニックの
師長さんの和田さんから
《 院長は、休ませますので
こき使って下さい。
そして、沢山、お父さんに
甘えなさい。 》
と、LINEが来ていた。

クスクスっ、笑いながら
「じゃ、甘えちゃおう」
と、言うと
父は、自分の頭をなでながら
微笑んでくれた。
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