きっと100年先も残る恋
ダイヤモンド富士
私たちを乗せた高速バスが富士山を見上げる町に到着した。

長いようであっという間だった道中。
途中、たぶん雄介も私も寝てしまったからだと思う。

ワクワクしながらバスを降りる。
富士山がすごく近い。

「天気良くて最高だね」

雄介が伸びをしながら言う。

空気が確かに美味しい。
伸びをして、たくさん吸い込みたくなる。
少しツンと肺を冷やす澄んだ空気。

黒いマウンテンパーカーを、この日のためだけにお揃いで買った。

そのせいか、なんとなく二人似通った格好になる。

「ちょっと散策しよ」

雄介が私に手を差し出してきた。
その手を掴む。

ただ、富士山を見上げるだけの湖。

たまに自動車が通る。
同じような観光客とすれ違う。

でも少し歩くとまた二人きりになる。

静かで透き通った空間。

「なんかさー、俺、今度の春から事務所に入るかも」

ぷらーん、ぷらーんと大きく手を揺らしながら雄介が言う。

今日は、雄介のペースで歩きたい、そんな気分。

「いいんじゃない?」

私には詳しいことは分からない。
事務所に入ったらどうなるのか、とか。

私の返事をゆっくり反芻するように頷いている。

「コータローさんがさ、ちゃんとモデルって仕事と向き合ったら?って言ってくれてさ」

その話の続きに耳を傾ける。

「今はブーストとの専属契約だけど、やっぱりいろんな仕事してみたいし」

ブーストというのは、ブームストックの略で雄介はそう言う。
今彼は、その誌面でしか仕事をしていない。

「まあまだ学生だから本業はそっちなんだけどね」

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